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魚のスレを科学する1 釣りにくい魚、釣りやすい魚

魚のスレを科学する1 釣りにくい魚、釣りやすい魚

川や湖で、岸近くを泳ぐ魚を見かけることはないだろうか。目の前にエサを落としてやれば簡単に釣れるだろうと思い、実際に釣り糸を垂れてみると、見向きもせずに通り過ぎてゆくばかり。このように、「魚がいるにもかかわらず釣れない」ことはよくある。特に人の多い釣り場では、「ここの魚はスレてるからなかなか釣れない」とぼやいた経験がある釣り人も多いはずだ。

スレの原因、2つの説

魚がいるのに釣れない、すなわち魚が「スレ」る原因には、「魚の釣られやすさの個体差」と「魚の釣り針学習」の2つの説が古くから知られている。
前者では、釣られやすい魚が先に釣られ、警戒心の強く釣られにくい魚ばかりが残る結果、最初と比べて釣れにくくなる、とされており、Martin仮説と呼ばれている。後者では、一度釣られてリリースされたり、針から逃げたりした魚がその体験から学習し、釣り針を回避するようになるとされ、Beukumaの学習説と呼ばれる。

この2つはいったいどちらが正しいのだろうか?あるいは、どちらも正しいのだろうか?はたまた、別の理由があるのだろうか? まずは「魚の釣られやすさに個体差がある」とするMartin仮説を詳しく見てみよう。

実際に釣って実験したら…

米山ら(1992)は、過去に釣られた経験を持たない野生のティラピア Tilapia mossambica を実験池に収容し、釣り実験を行なった。池を2つに仕切り、片側に全ての魚を追い込んで釣りをして、釣れた魚に標識をして反対側に移す、という操作を行ない、池にいる魚の半数を釣り上げたところで、仕切りを外して釣れた魚と釣れ残った魚を混ぜた。1日半の間を空けて、同様の試行を2回繰り返し、3回目の釣り試行の終了後、全ての魚の標識を確認して、各個体が何度目の試行で釣られ、全部で何回釣られたかを一匹ずつ記録した。

その結果、「魚の釣られやすさに個体差があり、一度釣られた魚は続けて二度目も釣られやすい」ことがわかった。少し詳しくみてみよう。最初の試行で、池にいた144匹のうち半数の魚を釣り上げてから元に戻したので、2回目の試行の最初には、釣られた魚と釣られなかった魚が72匹ずつ存在している。もし「釣られやすさに個体差がない(=どの魚も同じ確率で釣られる)」とすると、一度釣られた72匹の半数、つまり36匹が二度続けて釣られるはずだ(図A)。ところが実際に釣りをしてみると、予想を大きく上回る51匹が二度続けて釣られた。同様に、一度目に釣られなかった72匹のうち36匹が二度目も釣られずに残るはずだが、こちらも予想を上回る51匹が二度とも釣られずに残っていた(図B)

つまり、一度釣られた魚は続けて二度目も釣られやすく、逆もまた然り、ということだ。さらに、3回の試行で一度も釣られなかった個体が41匹(全体の29%)も残っており、事前に予想された18匹(全体の12.5%)を大きく上回っていたことから、釣られにくい個体も確かに存在するとわかった。

食い意地が裏目に…

後日、同じ魚たちを用いて行なった実験で、釣られやすい個体はより多くのエサを食べることが確かめられ、著者らは「釣りエサに強く反応する個体ほど、釣られやすい可能性がある」と結論づけた。本来なら、他の個体より多くエサをとれる個体ほど生き延びる確率が高くなるのだろうが、ひとたび釣りで人間を相手にすると、その食い意地が裏目に出てしまうというわけだ。「食欲の秋」と称して旬の味覚に目移りする我が身を振り返り、食い気もほどほどにしようと思った次第である。

 参考文献

ティラピアTilapia mossambicaの釣られ易さの個体差.

米山兼二郎・八木昇一・川村軍蔵(1992)

日本水産学会誌58: 1867–1872.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/58/10/58_10_1867/_article/references/-char/ja/

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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