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魚のスレを科学する3 ブラックバスがスレないエサは?

魚のスレを科学する3 ブラックバスがスレないエサは?

先日、小学生の頃に何度か訪れていた釣り堀の近くを通りがかり、二十数年ぶりに様子をのぞいてみた。土曜の昼下がり、4面の池に5–6組の釣り人たちがおり、思い思いに釣り糸を垂れていた。ふと気づくと、別々の場所で釣っていた3人の竿が大きく曲がっている。以前に来たときは、多くの釣り人がずらりと並んで竿を出していたものの、魚はほとんど釣れていなかった記憶がある。

「この釣り堀、こんなに釣れる場所だったっけ?」

魚とファイトしていたのは、カップルで来ていた若い男性と別のカップルの女性、そして3人組の小学生の1人。見た限り、3人とも初心者のようだ。

「釣り人が少ないとはいえ、そう簡単に素人の針にかかるものかなぁ…」

最終的に、3人がそれぞれ無事に魚を取り込む様子を見届けたところで、釣り堀をあとにする。「ずいぶん簡単に釣っていたが、放流されたばかりでまだ釣り針を学習していなかったのだろうか。あるいは、エサが足りず空腹だったのか…」自分も初心者であることはすっかり棚に上げ、いつまでも考え込んでいたのであった。

ブラックバスで同時に実験してみた

魚がスレる原因として、「魚は釣られた経験から学習する」「釣れやすさに個体差がある」とする2つの説を紹介してきた。今回は、両者を同時に検証した例を紹介する。

幅5メートルの水路を長さ40メートルに仕切り、コンクリートブロックで隠れ家を9か所用意した実験水路に、オオクチバス Micropterus salmoides 65個体(全長18–26センチ、体重140–480グラム)を放して1週間ならした。その後、釣り人1名が日中に6時間釣りをして、釣れた魚の個体番号を記録して再放流する操作を1日おきに10回繰り返した。釣りをしない合間の日には、エサとしてウグイを投入した。釣り方はエサ釣り(ミミズ、スジエビ、活きウグイ)とルアー釣り(ワーム)の4種類を試し、そのときどきで釣れやすいものを選んだ。

見慣れないエサで釣られると…

釣られた魚の数は、1回目と2回目の釣りで20尾以上、3回目以降は7–14尾と減少し、魚のスレが認められた【図1】。また、釣れた時のエサの種類にも変化がみられ、2回目の釣りまでは4通り全ての釣り方で魚が釣れたが、3回目以降はミミズとワームでは全く釣れなくなった。

釣れた個体は全て戻しており、水路にいる魚の数は毎回同じなので、釣獲率の低下は魚が釣り針を学習したためと考えられる。特に、(合間の日のエサとして与えているウグイ以外の)見慣れないエサ(ミミズ、ワーム)で釣られた個体は、それらを危険なものとして強く記憶した可能性がある。一度釣られた経験を通じて、危険なエサを認識し、以後はそれを避けるようになったということだ。

“つい反応する”エサも?

逆に、ウグイをエサにすると釣れやすさは変わらず、学習による回避が見られなかった。つまり、釣り場で実際に食われているものをエサに使ったり、それを模したルアーを使う方が、魚に警戒されず、釣りやすいと予想できる。なお、スジエビに関しては、エサとして与えていなかったにもかかわらず、ミミズやワームのような釣獲率の低下がみられなかった。水中でピンピンと跳ねる動きにバスたちが“つい”反応してしまった、あるいは、栄養価の高いエサとして認識され好んで食べられた、など、他に理由があるのかもしれない。

魚は学習する。個体差もある…

個体ごとに釣り上げられた履歴をみてみると、10回の釣りで一度も釣られなかった個体が4尾いる一方、1尾は8回も釣り上げられていた【図2】。明らかに、釣れやすさに個体差があったと言える。ちなみに、実験の開始前と終了後でどれだけ体重が変化したかを比べると、体重の増えた(=エサを十分に食べられた)個体と、減った(=エサをあまり食えなかった)個体のどちらもおり、体重の増減と釣れた回数に有意な相関はなかった。すなわち、エサを捕れない個体ほど釣りエサに飛びつきやすいという関係は、今回は見られなかった。

今回の実験で、2つの仮説のどちらも同時に成立しうることがわかった。知見をまとめると、まず、釣られたり、釣り落とされたりという針がかりの経験により、魚は釣れにくくなる。人の多い釣り場ほど、針がかりする魚の絶対数も増え、相対的に、より魚がスレると言える。また、見慣れないエサがすぐに学習されたのに対し、見慣れたエサでは、釣れやすさはあまり変わらなかった。エサやルアーを選ぶ際には、対象の魚が普段どんなエサを食べているかを把握するのが大事になるだろう。

さらに、釣れやすさには個体差があり、たとえば空腹度の高い方が釣れやすい(「魚のスレを科学する1 釣りにくい魚、釣りやすい魚」)というように、魚の状態によって釣れやすさも時々刻々と変化しうる。ただ、実験に用いた各個体がどれだけ空腹かを知るのは難しく、それゆえ、釣れやすさを決める要因を特定するのは困難であった。

次回は、空腹度と釣りやすさの関係に絞って検証した論文をご紹介しよう。

参考文献

片野(2009)実験池におけるオオクチバスの釣られやすさに見られる個体差.日本水産学会誌75: 425–431.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/75/3/75_3_425/_article/-char/ja/

*この論文は、誰でも無料で読める。バス釣りをする人は、読んでみてほしい。

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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