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水温上昇が魚の食いを促す

朝晩の底冷えも緩み、日中には日差しや風に春の訪れを感じる今日この頃。私たちの感じる「春」は、気温として肌に感じられる温かさそのものといっても過言ではない。一方で、水の温かさにも春は表れる。

   水ぬるむ頃や女のわたし守    蕪村

古くは江戸時代から、「水ぬるむ」「温む川」「温む池」が春の季語として詠まれるように、魚にとっての春の訪れは、かれらを取り巻く水の温度として感じられているに違いない。

冬を越して気温も水温も上がるこの季節、「そろそろ魚の食いが活発になってくるはず」と、はやる気持ちを抑えるのに苦労している釣り好きも多いだろう。では実際のところ、魚の摂餌と水温にはどのような関係があるのだろうか。今回は、シンプルな実験で水温と魚の食欲の関連性を明快に示した事例を紹介しよう。

キンギョで水温と食いを観察

平田(1960)は、日光が十分に入る温室内の池にキンギョを泳がせ、記録計つきの自動エサやり器を用いて、魚の摂餌行動が水温に応じてどう変化するかを各月5〜7日間ずつ、1年間記録した。
まず、大まかな傾向としては、水温が高くなるほど、1日あたりの摂餌回数が多くなった【図1】。しかし、同じ月のほぼ同じ水温の2日間を比べた時、摂餌回数に2倍近く差の出ることもあった。そこで、1日の中で水温がどれだけ大きく上下したかを、各時間の水温の、その日の平均水温からのばらつきで見てみると、平均水温が同じ日でも、1日の中で水温の上下動が激しい日ほど、魚の摂餌回数が多いことがわかった。実際、1時間ごとの水温、1時間あたりの水温変化の大きさ、1時間あたりの摂餌回数をグラフにすると、どの季節も似たような傾向を示しており、摂餌回数のピークは、最高水温を記録した時刻ではなく、水温が最も急激に上昇した時刻と一致していた【図2】。

すなわち、

・季節でみると、水温の高い時期ほど、摂餌回数が多かった。
・同じ季節では、1日の平均水温が同じでも、水温変動の激しい日の方が摂餌回数が多かった。
・1日の中では、最高水温の時刻ではなく、水温の上がり幅が最も大きい時刻が摂餌回数のピークと一致していた。

つまり、水温が高いか低いかだけではなく「水温の上がり幅」も、魚の食いを決める大きな要因となっていたのだ。

予測は天気や気温を手がかりに

釣行前に、行く現場の水温をチェックする人は多いだろう。それももちろん大事なのだが、可能であればそれに加えて、1日の中でどの時間帯に水温が上がりそうかを予想できるとよいかもしれない。水温が直接わからなくても、水温変化が気温変化にやや遅れて起こる(水は空気より温まりづらい)ことを考慮すると、たとえば「晴れの日は、午前中の早いうちが狙い目」「曇りの日は、日が高くなってからの方がよさそう」と大まかな予測は立てられそうだ。

通い慣れた釣り場でも、あるいは、通い慣れた場所こそ、「水温の変化幅」に着目してみると、また新たな発見があるかもしれない。
出会いと別れの交錯するこの季節。釣り人のみなさんには、魚たちとの素敵な出会いがありますよう。

参考文献

平田(1958)金魚の餌索日週変化と水温の関係.水産増殖 5: 46–50.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci1953/5/4/5_4_46/_article
平田(1960)金魚の餌索日周期と水温変曲点.日本水産学会誌 26: 783–791.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/26/8/26_8_783/_article/-char/ja/

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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