公式LINE@に登録してみる>

「大物の釣れた場所」は好ポイントか?

「大物の釣れた場所」は好ポイントか?

この4月から、琵琶湖のほとりの職場に移った。春もやに霞む湖を眺めながらの通勤。釣り竿をかついで出かけてしまいたい気分で一杯の毎日だ。

湖のほとりという土地柄もあってか、新しい職場にも釣り人が多いようで、この時期は何がよく釣れる、今ならあの場所が狙い目、などとあちこちから情報が耳に飛び込んでくる。

話を聞いていると、実際に魚が「釣れた」ポイントはわりと共通している。ところが、面白いことに、その場所を“狙い目”と感じるかどうかの判断は、人によって異なるようだ。例えば、ある岬について「あそこはダントツでよく釣れる」という人もいれば、「まぁ普通に釣れるよ」「一応釣れはするけど言うほどではなかったな」という人もいたりする。

魚が釣れているのだから、魚影の濃いポイントに思える。それなのに、人によって評価がまちまちなのはどうしてだろう。

釣り人は、自分の経験を元にポイントの良し悪しを判断する。
一方、釣れやすさは、釣り人が思う以上に、その時のコンディションにも左右されているのかもしれない。そして、それが“まちまちの評価”につながっているのではないか?

釣り大会の結果とその時のコンディションを比較してみると…?

この仮説を裏付けてくれそうな研究がある。英国セバーン川の上/中/下流で開かれた釣り大会で、釣りクラブから得た3年分のデータを集計し、魚の釣れやすさと流量・水温との関係を調べたものだ。

釣られた主要な魚種は、バーベル、ヨーロッパカマツカ、ブリーム、ブリーク、ローチ、チャブ、デイス、ヨーロッパウナギ、ラッフの9種【下の図1】だった(そのほかに少数のシャッド、タイセイヨウサケの幼魚、ブラウントラウト、ノーザンパイク、ミノー、イトヨ、ヨーロピアンパーチも記録された)。

主要な9魚種について、釣果全体に占める割合を水温別に比較したところ、水温が高い日ほど多く出現する種(5種)、水温が低い日ほど多く出現する種(2種)あるいは水温に関係なく一定の割合で釣れる種(2種)がいた。
日ごとの釣果を、川の流況と照らし合わせてみると、流量については、ある臨界点(洪水の一歩手前)までは釣れる/釣れないにほとんど影響せず、洪水状態になると、魚がほとんど釣れなくなった。これは、流量が増えすぎると流れが速くなり、釣りの仕掛けを制御するのが困難になったためと考えられた。

いっぽう水温は釣果に明らかに影響しており、水温18-20℃のときに、魚を1匹でも釣り上げた人(ボウズでなかった人)の割合が最も高くなった。また、下流から中流、上流へ行くほど、適水温から外れた時の釣果の減り具合が大きくなった【下の図2A】。

さらに「魚を釣り上げた人の割合」ではなく、「1人が1時間あたりに釣り上げた魚の重量」を釣果として同じ解析をしたところ、適水温が18–20℃という結果は変わらなかったものの、釣り人ごとに釣果のばらつきが大きくなった【下の図2B】。

 

筆者いわく、このばらつきは釣り人の腕の差を示すものであり、釣れた魚の数や大きさを考慮しない「釣れた人の割合」の方が、そのポイントの良し悪しを判断するよい指標になると結論づけている。

「大物が釣れた」より大事なのは…

ここから言えそうなことは2つある。

・水温をみれば、「平均的に」どれだけ魚が釣れそうか予測できる(より細かく予測するなら、前回の記事にも書いたとおり、「1日の中での水温変化の度合い」も参考にするとなおよいだろう)。

・釣果情報を調べる際には、「大物を釣った人がいた」という情報よりも、「ボウズの人が少なかった」情報の方が、より信頼性が高く、魚をゲットできる可能性が高くなる。

都会に暮らしていた頃、釣り新聞を読むのが好きで、釣果欄に登場する魚種名や数をみて、海中を泳ぐそれらの魚の様子を思い浮かべたりもしていた。そんな中、ずっと気になっていたのが「船中○尾」という釣果の表記方法だった。たとえば「5人で船中100尾(0-40尾)」という釣り船と、「8人で船中50尾(2-8尾)」という釣り船があったら、どちらを選べばより釣果をあげられるだろうか。

合計の数字だけみると、前者の船に乗れば20尾くらい(クーラーボックス一杯!)のアジが釣れるように感じるが、カッコ内まで注意して読むと、「5人で合計100尾、ただし1人あたりでみると0尾(!)から40尾」と、人によって釣果に幅があるとわかる。より確実に魚を釣りたいのなら、一見数字が少なくても、後者(=ボウズの人が居なかった船)の方が、「魚は居るはずなのに、自分には釣れない」という切ない経験をせずに済むかもしれない。

 

文献情報

North, E. (1980) The effects of water temperature and flow upon angling success in the River Severn. Aquaculture Research 11: 1–9.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1365-2109.1980.tb00276.x

 

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

サカナ生態学カテゴリの最新記事