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魚のスレを科学する7 “釣りやすい”養殖魚も野生を取り戻す

魚のスレを科学する7 “釣りやすい”養殖魚も野生を取り戻す

このところの陽気で、琵琶湖から望む山々の残雪も消え、芽吹き始めた新緑が目に鮮やかだ。各地の山間を流れる渓流では、続々と釣りの解禁日を迎えている。この日を心待ちにしていた人も多いのではないだろうか。この時期の渓流釣りは、「初物」としての季節感に加え、釣りやすさも相まって人気がある。

解禁日当日は、冬の間に一切釣り人が入っていないため、魚影が濃く、警戒心が弱くて釣りやすいとされる。また一部の渓流では、解禁日の前後に養殖魚の放流もされており、こうした場所では「養殖モノは警戒心が弱いから釣りやすい」とも言われている。果たしてこれは本当だろうか?あるいは、放流されて日が経つと、かれらもスレて釣れにくくなるのだろうか。

やはり解禁日は狙い目だった

岐阜県の山中を流れる竹原川では、3月1日に渓流釣りが解禁される。釣り調査を行なった2006年と2007年は、約18-24センチに育った養殖アマゴを、解禁の1週間前、解禁直前(3日前or前日)および解禁当日の3回に分けて放流した。

解禁初日に来た釣り人は、2006年が19人、2007年が24人で、釣り上げた魚の数は、それぞれ307匹、270匹だった。解禁2日目〜10日目は人数、釣果とも少なく、2006年はのべ15人で2匹、2007年はのべ8人で2匹だった。やはり、解禁日に釣り人、釣果とも集中しており、10日間で釣り上げられた魚のうち、実に99.3%が解禁初日に釣られていた。さらに、釣れた魚がいつ放流されたものかを調べてみると、当日放流された魚の割合が最も多く、放流されてから日が経つほど、釣れにくくなっていた。

 

養殖魚も放流から数日で釣れにくくなる

この要因は大きく3つ考えられる。まず、今回の実験ではアマゴを4日間絶食させてから川に放流した。放流当日は空腹のためエサに飛びついてしまい、釣れやすかった可能性が高い(*空腹の魚の釣れやすさについては以下の記事参照)。

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また、2006年は解禁の4日前から雨で川が増水していた。増水のさなかに放流されたアマゴのいくらかは、その場にとどまらず、下流に泳ぎ去った可能性がある。雨のあとは、放流ポイントよりもやや下流に魚がたまっていたのかもしれない。

しかし、増水がなく、解禁日以前に放流した魚(2007年の「1週間前」と「前日」)でも、放流後の日数により釣れやすさに差があった。つまり、養殖された魚であっても、野外で数日過ごすうちに空腹を満たして警戒心、いわば野生の勘を取り戻し、簡単には釣られなくなるということだ。

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個人的な話で恐縮だが、少し前からキャンプに行く機会が増えた。自然の中にしばらく身を置くうちに、五感が研ぎ澄まされていくように感じられることがある。これまで目に留まらなかった花や虫たちの姿に気づいたり、木々の葉が触れ合うささやかな音が聴き取れるようになったり…。

こうした体験も、立ち並ぶビルや行き交う自動車、大勢の人に囲まれた日々の都会暮らしで鈍っていた感覚が、“野生”を取り戻した証拠かもしれない。

この大型連休で、釣りに出かける方も居るだろう。水中にひそむ魚たちに思いを巡らせるとともに、自然を全身で感じ取り、自身の中に眠る“野生”を呼び起こしてみてはいかがだろうか。

――吉田誠[国立環境研究所 琵琶湖分室・博士(農学)]

文献情報

德原ほか(2009)アマゴの成魚放流における放流日およびスモルト・パーの違いが釣獲効率に与える影響.水産増殖 57: 423–428.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci/57/3/57_423/_article

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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