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魚のスレを科学する8 「釣果の多い日」の特徴を、スレを考慮してあぶり出す

魚のスレを科学する8 「釣果の多い日」の特徴を、スレを考慮してあぶり出す

連休明けの琵琶湖周辺は、ホンモロコ釣りの最盛期を迎えている。琵琶湖に注ぐ川や水路の両脇にずらりと並んだ釣り人たちが糸を垂れ、じっと水面を見つめる様は春の風物詩でもある。
野外調査のために車を走らせながら、「気候もよくて今がいちばん釣りやすい時期なんだな」と思う反面、隙間なく岸辺を埋める釣り人のあまりの数に「こんなに釣り人が多いと全然釣れなくなってしまうのでは?」と疑問も湧いてくる。天候が多少不向きでも、他の釣り人があまり居ない日を狙う方がかえって釣れるのではないだろうか?

今回は、釣り人の入っていない自然の池で、水温や天気などの自然要因と、釣り人による人為的な影響のどちらが釣果に大きく影響するかを確かめた実験を紹介する。

釣果のデータを統計的にとってみた。

Kuparinenらは2005年の春〜秋にかけて、ベルリン郊外にある一周2キロほどの池でノーザンパイク(Esox lucius)を対象に調査をおこなった。この池の水深は平均して約4メートル、周囲はヨシの茂みに囲まれており、事前の調査によって500尾あまりのパイクがすむことがわかっている。
5月下旬から9月中旬にかけて、全部で94日間、合計25人の釣り人が入れ替わりで釣りをした。このとき、一般的な釣り場と同じ条件になるよう、釣り人は自分の好きな釣り方を自由に試すこととし、岸からのルアー釣り(スピナー、スプーン、クランクベイト、ジグ、ソフトルアー)や、小魚をエサにしたウキ釣りのほか、ボートでのトローリングもおこなった。

釣りは日の出〜日没までとし、釣れた魚は傷つかないよう細心の注意を払い、速やかにキャッチ&リリースした。日ごとに全員の釣りをした時間と釣果を記録し、あわせて、季節や天候に関わる項目(水温、風向・風速、日照時間、気圧、翌日にかけての気圧変化、湿度、雨量、月齢)も計測・記録した。

 

「釣果が多かった日」の5つの特徴

それでは、結果をみてみよう。まず、全体の釣果は日によって大きく変動した(1時間あたりに釣れたパイクの数:0-1.7匹)ものの、季節性などの明瞭なパターンは見られなかった。そこで、「釣りを続けたことで魚がスレたか」および「その日の天候条件や時間帯によって釣果が左右されたか」の2点について検証を行った。
すると、5つの項目が釣果に影響を及ぼすことがわかった【図】。

釣果が多かった日(時間帯)の特徴は、

(1) 過去2日間の累積釣り時間が少ない

(2) 平均水温が低い

(3) 風速が大きい

(4) 夕暮れ時

(5) 満月あるいは新月に近い

の5点であった。

 

まず(1)について、過去2日間に釣りをした人数と時間が多いほど、パイクが釣れにくくなっており、「スレ」が観察された。この影響は他の4項目よりもはるかに大きく、どんなに他の条件がよくても、直前に釣られた魚が多ければ、その日の釣果はあまり期待できないことが示された。なお、スレのメカニズムについては、釣り針学習か、釣りやすさの個体差による影響かは特定できなかったが、同じ時期に別の研究者がおこなった行動追跡調査により、釣られた直後のパイクが数時間〜2日ほど不活発な状態になり、2-3日後にはまた元通りの行動をみせるようになることが明らかにされている。今回の結果をみると、連日、釣り人が集中するとスレてしまうものの、間が空けば再び活発に採餌し始め、釣れるようになることが示されたと言えよう。

続いて、(2)〜(4)に挙げた要因は、パイクの生態と関連づけられる。冷水を好むノーザンパイク(14〜17℃が適水温)が低水温で活発になったことに加え、強風で濁りが出たり、夕暮れ時にやや暗くなったりしたタイミングが採餌に適した条件だったため、釣りやすくなったと考えられた。

最後に、(5)については、直接的な理由はわからないものの、月齢は釣果を予測する重要なカギになりうると筆者らは述べる。一般的に、月の満ち欠けが魚の行動に影響を及ぼすメカニズムとしては、①潮汐のリズムと、②月の明るさの変化の2つが考えられるが、今回は池で、昼間しか釣りをしていないので、どちらも直接は当てはまらない。ひとつの仮説として、月の満ち欠け周期による夜間の明るさの変化が、動物プランクトンや小魚の(昼夜を通じた)行動パターンに影響を与え、それらをエサとするパイクの行動にも影響したのではないか?と推測しているが、今後の検証が待たれる、と結ばれている。

パイクは低水温を好む

以上をまとめると、パイクを釣るには、低水温、強風、満月or新月近くの日の夕暮れ時が狙い目だが、直前2日に釣り人が多いと釣れにくい、ということになる。これをより一般化すれば、

・狙う魚の生態を知り、かれらの活動にあわせて釣るべし

・狙う魚以外の生物の行動が、間接的に釣果に影響する可能性もある

・魚種により期間に差はあるが、釣り人が短期間に集中するとスレる

の3点にまとめられそうだ。

それでは、冒頭で紹介したホンモロコ釣りについてはどうだろうか。
ある知人に「どうしてあれほど混雑する釣り場に人が集まるんですか?」と聞いてみたところ、「そりゃお前、産卵前に川を遡上する時期しか釣れないし、他のところは大方ブラックバスに食われちまってホンモロコが全然居ないから」と即答。まさに、狙う魚の生態(産卵時期&回遊パターン)と、他の生物(捕食者)の行動が、釣果に直結している事例だったのだ。
研究者として、琵琶湖の魚の勉強を始めて早くもひと月以上は経つが、まだまだ、現場の釣り人に学ぶことはたくさんありそうだ。

文献情報

Kuparinen et al. (2010) Abiotic and fishing-related correlates of angling catch rates in pike (Esox lucius). Fisheries Research 105: 111-117.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0165783610000755

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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