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魚の行動は雨に左右されない

前回の記事で、雨は釣果を左右しない、という研究事例を紹介した。湖内の魚の様子はうかがい知れないものの、釣り人にとっては、(濡れて面倒なことをのぞけば)雨が降っても特に気にする必要はない、という話だった。
それでは、雨が降った日、魚はどのように過ごしているのだろうか今回も「雨」をテーマに、水中で暮らす魚の行動と天気の関係をみていこう。

発信器で魚の行動を追跡

カナダ中央部のレイクランド州立保養地にあるシバート湖(Seibert Lake)は、1メートルを超す大物パイクが釣れる有数の釣り場だ。東西8km、南北12kmの広大な湖は、最大水深が11メートル、岸近くに種々の水生植物が茂るほか、砂地や岩場もみられ、じつに多様な自然環境の中で釣りができる。

Chapman & Mackay(1984)は、この広い湖に暮らすパイクがどのような環境を好むかを調べるため、5匹のパイク(最大の個体は94センチ!)に電波発信器をとりつけて放流した。パイクから発せられる電波を、船上でアンテナを使って受信し、それぞれのパイクの居場所を特定したあと、その場所の【水深・底質・岸からの距離・植物の有無と種類】とその時の天候を記録した。この作業を、全個体の発信器の電池が尽きるまでの49日間にわたって続け、パイクの居た場所、環境条件および天候の関係を解析した。

それではさっそく結果をみてみよう。

5匹のパイクから得られた146点の位置データを湖の詳細な地図と重ね合わせて検証したところ、パイクは、(1)水深6メートル以下と浅く、(2)底が砂や岩で、(3)岸から500メートル以内の、(4)水生植物がみられるような水域に多く滞在していた。

また、晴れた日にはより岸近くに寄ってくる一方、風の強い日は岸から離れた、あまり水深の深くない水域に移動する傾向がみられた。そして、雨の有無はパイクの居場所に一切影響を与えなかった【図】。

筆者らは論文の中で晴れて日が差したり、強風による波で岸近くの水が撹拌され濁りが出たりすると、視覚に頼ってエサを探すパイクにとって「エサを見つけやすい」場所が変わるのではないか、と考察している。つまり、「日が差すか差さないか」は水中でのエサの見やすさを左右するが、いったん雲に覆われてしまえば、「雨が降るか降らないか」は水中の明るさに影響しない、ということだろう。

前回はマス、今回はパイクと魚種は異なるものの、この2回の内容をまとめるとすれば、「雨が降っても、魚をとりまく水中の状況は特に変わらず、釣りの結果にも影響しない」と言えそうだ。

降っても晴れても釣り人は…

先日、梅雨の晴れ間にハス釣りへとでかけた。遠方より参加予定の友人からは、釣行の数日前から「雨天決行」と伝えられており、前日まで刻々と変わる予報に一喜一憂していたものの、当日起床して天気予報をみると、快晴の予報。実際、現場につくと雲ひとつない青空が広がっており、合流した友人2名と大喜びで釣りの準備を始めた。

しかし、ひとつ想定外だったのは、この時期の琵琶湖にはめずらしく、朝から強い風が吹いていたこと。水面が波立ってしまい、自分のルアーの位置も、魚の姿もよく見えない。おまけに少し時期が早かったようで、ハスたちは繁殖期のまっただ中。オスがバシャバシャと元気にメスを追いかけ回しずいぶんとにぎやかな水中の喧騒をよそに、冷たい風に吹かれつつ、釣れる確信の持てぬままキャストを繰り返す釣り人3名。結局、早朝から昼過ぎまで休みなく釣り続けるも、釣果はたったの4匹と、かなり渋い釣行になってしまった。

釣行前は天気予報にやきもきし、釣り場では風に翻弄されてと、ちょっとした天の気まぐれで右往左往する私たちの姿は、水中からどう見えていたのだろうか。運悪く釣られてしまい、塩焼きとなって皿の上で虚空を見つめるハスを眺めつつ、ふとそんなことを考えた。

文献情報

Chapman CA & Mackay WC (1984) Versatility in habitat use by a top aquatic predator, Esox lucius L.
Journal of Fish Biology 25: 109-115.

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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