魚のスレを科学する6 狙っているのに釣れない不思議

魚のスレを科学する6 狙っているのに釣れない不思議

どんな釣りが好きですか?と聞かれたら、なんと答えるだろうか。私は、最初から特定の魚を狙うのではなく、ひとつの仕掛けで複数の魚種を同時に狙う「五目釣り」が好きだ。魚が水面に現れるまで、何が釣れるのかわからないドキドキ感、色々な魚に出会える満足感、さらに、家で多彩な魚を料理できる充実感も相まって、とても楽しく、オトクに感じられるからだ。

いっぽう、ある特定の魚を釣ることに情熱を注ぐ釣り人にとっては、狙いとは違う魚、いわゆる「外道」は困った存在かもしれない。何も釣れないよりは断然よいと個人的には思うのだが、せっかく釣れても全然うれしくない、むしろ腹立たしく思えることさえある、と聞くこともしばしば。

この「狙った魚が釣れない」事態は、いるはずの魚が釣れないという点では「スレ」現象の1種ともみなせそうだ。そこで今回は、釣り方そのものが釣果を大きく左右することを実験的に確かめた、事例を紹介しよう。

フライとエサで釣り比べ

イワナの多くすむ渓流で、本流とそこに流れ込む支流の2か所で釣りをした。本流ではフライフィッシングを、支流ではエサ釣りをそれぞれ2–3日行ない、どちらも釣りの直後に電気ショッカーを使って、釣れ残った魚もすべて捕らえた。本流、支流どちらとも、800メートルの調査区間内に200尾超の魚がおり、イワナの占める割合はそれぞれ84%、76%と非常に高かった。イワナ以外には、野生化したニジマスと、ごく少数(3尾)のブラウントラウトの生息が確認された。

それでは、早速釣り調査の結果をみてみよう。フライ釣りを行なった本流(イワナ率84%)では、ニジマスが頻繁にかかり、釣果の24%がニジマスだった。いっぽう、支流(イワナ率76%)のエサ釣りでは、釣果の84%をイワナが占め、ニジマスよりも明らかに釣れやすかった。つまり、いる魚の構成も同じ、場所もほとんど離れていない2つの調査区で、仕掛けを変えると、イワナ(ニジマス)の釣れやすさが明らかに違ったのだ。

ニジマスは浅場、イワナは深場に

前回も紹介したとおり、サケ・マスの仲間は体の大きい個体ほど、エサの多く流れてくる場所に陣取るため、釣れやすくなると言われている。そこで、調査区ごとに、釣れやすさと体長の関係を整理してみたところ、イワナが多く釣れた支流ではたしかにイワナの方がニジマスよりも大きかったが、ニジマスの釣れやすかった本流では、2種で体長に差はなかった。それでは、本流でイワナがあまり釣れず、ニジマスが頻繁に針にかかったのはなぜだろうか?

調査区での潜水観察や、他の研究によれば、ニジマスはより浅くに定位し、表層を流れる陸生昆虫を食べるいっぽう、イワナはより深くに留まり、水底付近を流れてくる水生昆虫を食べると報告されている。そのため、水面または表層にフライを流した本流ではニジマスが釣れやすく、川底付近にエサを流した支流では、イワナがより釣れやすかったと考えられる。このように、2種の分布する深度(=タナ)あるいは採餌様式の違いを正確に理解することで、釣りやすさの違いも解釈できるかもしれない、と筆者らは述べている。

いくら魚影が濃くても、狙いの魚に合わせた仕掛けを使い、正しいタナを攻めなければ釣れない。

とてもシンプルで、当たり前の話に聞こえるが、「魚がいるはずなのに釣れない」現象の何割かは、この基本中の基本をいつの間にか忘れてしまっていた、あるいは小さな「ずれ」に気づいていなかった、という可能性もある。「どうして外道ばかり釣れるのか」と早合点する前に、今一度、自分の釣りを見直してみることも大切かもしれない。

あえてタナを外す楽しみも

以前、乗り合いのアジ釣り船で沖に出たときのこと。魚探でアジの群れをみつけた船長から指示された深度をわざと外して、アジの群れの上層や下層にいる別の魚を狙う「セルフ五目釣り」をして楽しんでいたところ、アジ以外の魚を次々と釣り上げる様子をみた船長から「しっかりタナを合わせねぇから…」と半ば呆れられたことがあった。しばらく好き放題に五目釣りを続けたところで、そろそろアジも釣ろうと指示通りのタナに合わせるようにしたのだが、どうしたことかアタリがぱたりと止んでしまった。隣に座るビギナーのお姉さんは、船長の指示を忠実に守って船内トップのペースで調子よく釣りまくっている。「タナを合わせているはずなのに釣れない…」と途方に暮れる自分の背中越しに、「あとリール5巻き分足りねぇよ」の一言と、船長の二度目のため息が聞こえたのを覚えている。

 

文献情報

坪井・森田(2004)野生化したニジマスと天然イワナの釣られやすさの比較.

日本水産学会誌 70: 365–367.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/70/3/70_3_365/_article/-char/ja/

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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