「雨と釣果には全く関係がない」という分析結果 

「雨と釣果には全く関係がない」という分析結果 

スケジュール帳を開き、何も予定のない週末を見つけたあなた。
この記事を読んでいる方なら十中八九、「お、釣りに行けそうだ」とそわそわし始めることだろう。
そのまま「どこに行こうか、何を釣ろうか」と、頭の中が釣り一色に染まってゆくこともあるに違いない。そしてもうひとつ、ほぼ確実に考えるであろうこと。「その日、雨は降らないよな?」

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各地で梅雨入りを迎えた今日この頃、せっかく予定が空いても釣りに行けず悶々と過ごしている方も多いことと想像する。(かくいう私もそのひとりだ)
雨が降ると出かけるのが億劫だし、たとえ雨具フル装備で出かけたとしても、ずぶ濡れで釣りをしたところであまり気が晴れない、という面もあるだろう。
しかし、肝心の釣果自体は、雨が降るとどう変わるのだろうか?

今回は、雨と釣果の関係を詳細に調べた、イギリスのとあるダム湖での事例を紹介しよう。

フライ釣りのダム湖における930日分のビッグデータ

ロンドンから100キロほど北に位置するアイブルック(Eye Brook)貯水池は、毎年4月から9月末までの半年間、マスのフライ釣りを楽しむ人でにぎわう湖だ。

ダムの完成した1940年から20年あまりは魚がほとんどみられなかったが、水質の変化と、長年の放流の効果もあって徐々に魚影が濃くなり、釣り人も集まるようになった。

こうした長年の経緯をふまえ、釣りに入るときは申告が必要で、釣果も報告も義務付けられているのだが、そのおかげもあり、ダム湖の水質や周辺の気象データだけでなく、釣り人の数やマスの生息数に関する膨大なデータが蓄積されている。

Taylor(1978)はこのデータに着目し、釣り場のさらなる発展をめざすべく、どのような要因がマス釣りの釣果を高めるかを検証した。

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検証に使ったのは、1966年〜1970年の5シーズン、930日分のデータである。
使ったデータは以下の通り。

釣りデータ

  • 釣り人の数(岸・ボート別)
  • マス2種それぞれの釣果(釣り人50人あたり、岸・ボート別)
  • 毎月の放流数から推定したマス2種の生息数

 

水質データ

  • 水位
  • 水温(表層、底層)
  • 成層の有無(=表層と底層の水温差)
  • 植物プランクトンの浮遊量(4種類)

 

気象データ

  • 雨量
  • 日照時間
  • 風向
  • 風速

用意したデータのセットは合計で20項目にもなる。

結果はどうなったのだろうか。

雨の量と釣果は「全く関係がない」

まず、20項目それぞれにつき、他の項目とどれだけ関連性があるかを、2つずつペアにして調べてみた。その結果、なんと「雨量」だけは、釣果とほぼ相関しない(=両者のあいだに関係がない)ことが判明した。雨量と相関があったのはわずかに2項目だけで、1つは「日照時間」(雨が降れば日は差さず、晴れているなら雨は降らないので、これは当然だ)、もう1つは「岸釣りする人の数」(雨の日は釣り人が減る!)であった。
興味深いのは、雨で岸から釣る人数が減っても、「岸釣りの釣果」は増えも減りもしなかったこと。雨が降っても降らなくても、1人あたりの釣果に特に影響はないことが明らかになった。
つまり、雨で人が減ったときこそ、ふだんより広々と釣り場を使えるチャンスだと言えそうだ。いっぽうボート釣りでは、釣り人の数、その日の釣果のどちらにも、雨量の影響はみられなかった。そもそも船に乗ってまで釣りに出るほどのやる気に満ちた釣り人は、多少の雨でもかまわず出かけることを示しているのかもしれない。

参考までに、マス釣りの釣果がよくなったのはどんなときか、結果もみておこう。釣果に影響しない雨量データを除いた、19の項目を元に主成分分析(PCA)をしたところ、大きく3つのことがわかった。

  1. ニジマスは、水温が高めで、ラン藻と呼ばれる植物プランクトンの多いような夏の時期によく釣れた。また、放流が行われた直後、湖内のニジマス生息数が多いときによく釣れていた。
  2. 一方ブラウントラウトは、水温が低めで植物プランクトンも少ない、春先によく釣れており、夏にはあまり釣れなかった。また放流で生息数が増えた直後も釣果は特に増えていなかった。
  3. 両者に共通していた点として、おだやかに晴れて湖の水が成層した(=表層が温かく、底層が冷たい状態)日はあまり釣れず、どんより曇って強風が吹き、湖内の水がよく混ざった日によく釣れていた。

これらを図にまとめると次のようになる。

つまり、地表の天候よりも、魚をとりまく水の状況が大きく変わることで、はじめて釣果にも影響が現れてくるということだ。

まとめ

今回の話をまとめてみると、次の2点に集約される。

ただ地上で雨が降っただけでは、その影響はほとんど水中に及ばず、釣果にも影響しない。(むしろ、釣り人の行動に影響が出る)

・同じ“悪天候”でも、強風が吹いたり、雨が続くことで川からの流入が多くなったりして、湖内の水が大きく混ざると、釣果がよくなることもある。

私たち人間の行動は地上の天気に左右され、魚たちの行動は水中の環境に左右される。
考えてみれば当たり前の話かもしれないが、基本だからこそ忘れずにいたいポイントだ。

雨模様の空を眺めながら、水中で変わらず泳ぎ回る魚たちの姿を思い浮かべる。
梅雨どきの今だからこそ、そんな休日の過ごし方もいいかもしれない。

吉田誠[博士(農学)、国立環境研究所 琵琶湖分室]

文献情報

Taylor AH (1978) An analysis of the trout fishing at Eye Brook—A eutrophic reservoir. Journal of Animal Ecology 47: 407–423.

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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