魚は痛みを感じない。「磁気」を感じて釣り針を認識しているという最新説

魚は痛みを感じない。「磁気」を感じて釣り針を認識しているという最新説

釣られてリリースされた魚は、その後は釣りにくくなる。

これを“スレる”と言っているが、私はスレの正体について「魚の行動習性を利用する釣り入門(講談社、ブルーバックス)」に書いた。すなわち、魚は痛みを感じることができないが、確かに釣り針を学習するということである。ここでは、それを加筆訂正したい。

”魚は痛覚を持つ”派の人々の不都合な真実

魚は痛覚を持つ、との主張は現在も続いていて、最近ではエビやカニにも及んでいる。

それらの根拠は以下のとおりである。

  • ヒトが痛みを感じる刺激に対して魚は逃げたり異常な反応行動を示す。
  • ヒトに効果的な鎮痛剤(モルヒネ)の投与によって有害刺激への魚の反応行動が弱められる。
  • 忌避的刺激によって魚の呼吸、心拍数、血中コレチゾール(ストレスの指標物質)が変化する。
  • 魚は有害刺激に応答する末梢神経、脊髄神経、後脳部、脳皮質をもつ。
  • 痛み刺激を感じて外傷を防ぐことは進化学的に合理的である。

これらは正しいのだろうか?

まず第一に、これらの根拠を示したとする実験を検討してみよう。これらの実験は、“魚は痛覚をもつ”と“ヒトが痛みを感じる刺激は魚も痛みを感じる”ということを前提に設計されている。さらにいえば、モルヒネは魚を含む冷血動物には効果がないことは定説である。また、有害刺激として蜂毒を使った例があるが、蜂毒はほ乳類にしか痛み効果がない毒である。

さらには、有害刺激に関わる末梢神経がひれの表皮下に濃密に分布して痛みに敏感だとして、ひれに刺激を与えている例がある。しかし、標識放流の際に標識として行われるひれの部分切除が、魚の行動に何ら影響を与えないことも定説である。

これに対して、魚の痛覚を否定した研究論文をはじめて発表したのは、米国ワイオミング大学の神経生理学者 Rose, J.D. (2002年)である。

彼は論文の中で、

  • ヒト中心的な考え方は動物を理解することの妨げになる。
  • ヒトの痛覚を司る神経機構は良く知られているが、魚はその神経機構を全く欠いていて、痛みを感じることはできない
  • 魚は有害刺激(ヒトは痛みを感じる)に行動で反応するが、これは痛覚の存在を証明するものではない
  • 魚は有害刺激に生理的ストレス反応を示すが、ストレスと痛みは異なる

の4つの論点を示した。納得のいく主張である。こうしたことから、魚は痛覚をもたないと私は信じていて、その幾つかの根拠を「魚の行動習性を利用する釣り入門」に書いてある。

釣り針記憶は「痛み」ではなく「磁気」である、という新説

   魚が痛みを感じないとすると、大きな疑問が残る。たしかに釣り針の学習は行われているのに、魚は何を記憶するのだろうか、ということだ。

私はこれについて、まだ実証試験をしていないが、釣り針がもつ磁気だと考えている。これの根拠にはいくつかある。順に見ていこう。

まず、魚は感度の良い磁気感覚をもっていて、地球磁場を感じることがわかっている。そしてその磁気感覚器は鼻腔の中かその周辺(つまり、ちょうど釣り針が掛かる位置)にあって、その磁気と釣り針経験を結び付けて記憶すると考えている。調べてみたら、市販の釣り針はどれも強く磁化されていて、小さな磁石のようなものであった。

さらに、パプアニューギニアで釣具の調査をした時、骨製の釣り針を見た。石器時代の遺跡から出土する物と同じで、鉄製の釣り針と同じように良く釣れると思わなかったが、なんと現地の漁師は骨製の方が良いといっていた。また、かつて、鹿児島県の漁師は金製(金・銀・パラジウムの合金 )の釣り針を使っていた。歯に被せた金を釣り針に加工した自作の釣り針である。骨も金も鉄を含まないので磁化しない。

ぜひ、磁化しない材料の釣り針を試してみたいものである。

もし自ら検証してくれる釣り人がいれば、ぜひともその結果を教えていただきたい。

書いた人

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。
私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。
魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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