空気呼吸と水面呼吸―魚が水面で口をパクパクする理由

空気呼吸と水面呼吸―魚が水面で口をパクパクする理由

前々回の記事(「魚はなぜ跳ねる?」)の公開後に読者の方から届いた質問。

この疑問に関する最初の研究が発表されたのは、実はいまから80年以上も前だ。

それから50年以上もかけて魚の“口パク”現象の実態が徐々に解明されていった。

今回はこれらの研究をふまえつつ、「魚が水面近くで口をパクパクさせる理由」、そして「水面で口パクしている魚は釣れるのか」という疑問に答えてみたい。

魚たちがもつ2つの呼吸方法

多くの魚は水中に溶けた酸素をエラから取り入れて呼吸しており、空気中の酸素を直接とりこむことはできない。とはいえ、飼っている金魚が水面近くに集まって口をパクつかせる姿に、見覚えのある方も多いだろう。

実はこの行動、「水面呼吸」と呼ばれるもので、酸素不足に対処するための呼吸方法の一つだ[1]

また、よく似た呼吸に、特殊な器官を持つ魚が行う「空気呼吸」がある。2つの呼吸の違いを見てみよう。

空気呼吸

まず先に、「空気呼吸(Aerial respiration)」について解説しよう。

こちらは文字通り、体内に取り込んだ空気中の酸素を直接吸収して呼吸に利用する。

代表的なものとして、肺をもつハイギョ(肺魚)や、空気をためる空気嚢をもつカムルチー(ライギョ)、腸で呼吸をできるドジョウなどが挙げられる。

これらの魚は、だいたい一定の間隔で息継ぎをしに水面に上がり、空気中に口先を出して空気を吸い込んで、またすぐに水中に潜っていく[2-4]

水面呼吸

いっぽうの「水面呼吸(Aquatic surface respiration, ASR)」でカギになるのは、空気ではなく、水面直下の水の層だ。

水の表面と空気が接する部分では常に空気中から酸素が溶け込むため、水面直下のごく薄い層(薄さ1〜数ミリ程度)には、呼吸に十分な量の酸素が常に存在している。

これをうまく活用しているのが水面呼吸だ。

魚たちは、水面スレスレに口先を近づけた姿勢のまま、口やエラを動かすことで、水面直下に存在する酸素豊富な水を吸って呼吸していたのだ。

この「水面呼吸(Aquatic surface respiration, ASR)」という行動は、Carter & Beadle(1931)が最初に報告して以降[5]、冒頭の質問にあったウグイや、口パクで有名なキンギョ(どちらもコイ目)のほかにも、
・メダカやグッピーといった水面下を泳ぎ回る小さな魚(ダツ目、カダヤシ目)
・テトラやコリドラス、エンゼルフィッシュなど中小型の熱帯魚(カラシン目、ナマズ目、スズキ目)
・温帯にすむハゼ類やブルーギルの仲間(スズキ目)
などなど[5-9]、実に多くの魚種で確かめられている。

水面呼吸できない魚

逆に、水面呼吸のできない魚の代表例としては、ブラックバスが挙げられる。

かれらのように身体と口の大きな魚は、水面直下にある酸素豊富な水だけを吸おうとしてもうまくいかず、すぐに酸欠になって死んでしまう[10]

こうした魚種では、酸素不足を感じた時、水面呼吸をするのではなく、より酸素の多い水域へとすばやく場所を移動することで生き延びているようだ。

魚の口パク、釣るチャンス?

それでは、この「水面呼吸」のために口をパクパクさせている魚は、釣れるのだろうか?

Kramer & Mehegan (1981) は、水面呼吸をしているグッピー Poecilia reticulata を観察し、活動時間の内訳を詳細に記録した。

すると、水中の酸素濃度が下がるにつれて、水面呼吸に費やす時間が増加し、代わりに呼吸以外の活動(求愛行動+採餌)の時間が減少した[11]

かれらの実験では、この活動時間の減少の理由が、酸素不足で動きが鈍ったためなのか、水面呼吸に時間をとられたためなのかは特定されていないものの、「水面呼吸をする必要のある状況下では、他の活動に費やす時間が下がる」と言えそうだ。

すなわち、口をパクパクさせている魚を釣ろうとしても、エサやルアーへの反応はあまり期待できない、と考えるのが妥当なところだろう。

必死に生きる魚たち

水中でしか暮らせない魚たちだからこそ、文字通り“死活問題”である酸素不足への対処法も、いろいろと進化させている。

とはいえ、空気呼吸にしろ水面呼吸にしろ、水面に姿をみせることは、陸上の動物や鳥などの捕食者に身を晒す高リスクな行動でもある。

酸素を求めて、まさに命がけで水面に顔を見せる魚たち。

水面下で悠々と泳ぐふだんの姿とは違った、必死で、張り詰めた行動だからこそ、私たちの印象に強く残るのかもしれない。

――吉田誠[国立環境研究所琵琶湖分室、博士(農学)]

参考文献

[1] Carter (1931) Biological Reviews
[2] Ishimatsu & Itazawa (1981) Japanese Journal of Ichthyology
[3] 板沢(2002)比較生理生化学
[4] 平山・広瀬・平野(1967)水産増殖
[5] Carter & Beadle (1931) Journal of the Linnean Society of London
[6] Chiasson & Gee (1983) Canadian Journal of Zoology
[7] Burggren (1982) Physiological Zoology
[8] Kramer & McClure (1982) Environmental Biology of Fishes
[9] Gee & Gee (1995) Journal of Experimental Biology
[10] Lewis (1970) Copeia
[11] Kramer & Mehegan (1981) Environmental Biology of Fishes

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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