
ルアーの適切な大きさとアクション、フック位置を科学する
大きいバスほど大きいベイトを食う、というのは本当だろうか?
なんとなく、経験的にはそう思える。
では、その具体的なベイトの大きさは?ビッグバスにとって、理想的なベイトサイズはどれくらいなのだろうか。
そしてバイトの瞬間、バスはどのように捕食するんだろう。
後ろからチェイスして一飲みだろうって?
普通そう考えるよね。でもどうやら違うらしい。
まずは、バスが捕食するベイトの大きさを詳しくみてみよう。
どれくらいの大きさのベイトに対して口を使うのか?
まずは、コクチバス(スモールマウスバス)に様々なサイズのウグイを与えた実験を紹介しよう。
片野らは、120*40*45cmの実験水槽にコクチバス1匹とウグイ5匹を入れ、捕食行動を観察した(※1)。
実験に用いたコクチバスは9.6~31.0cm、ウグイは2.7~18.0cm。1匹のコクチバスの大きさ毎にウグイの大きさを変えていき、捕食されずにいたウグイの最大体長を、その大きさのコクチバスに捕食されるウグイの最大体長と判断した。
たとえば、9.6cmのコクチバスは6.2cmのウグイは捕食したが、6.7cmのウグイは捕食されずに残った。
同様に31.5cmのコクチバスは14.9cmのウグイは捕食したが、15.4cmは残った。
こうした結果から、9.6cmのバスの捕食限界を6.2cm、31.5cmのバスの捕食限界を14.9cm…として、色々な大きさのバスの捕食限界を示したのが以下のグラフだ。
我々釣り人の予想通り、だいたい食べられるウグイの大きさはバスの大きさに比例していることがわかる。
具体的には、コクチバスによって食べられたか攻撃されたウグイの最大体長は
ウグイの体長(cm) = 0.452×バスの体長(cm) + 2.559 (cm)
となった。コクチバスでは、だいたい、バスの体長の半分以下が適切なベイトのサイズだということになりそうだ。
他の研究者の結果も確認してみよう。
Zimmermanは、コロンビア川などでコクチバスの胃の内容物を調査して、ベイトフィッシュの最大体長を求めた。その結果、ベイトフィッシュのサイズは
ベイトフィッシュの体長(cm) = 0.41×コクチバスの体長(cm) + 3.38 (cm)
と表すことができた(※2)。
やはり、半分より少し小さいくらい、という感じのようだ。
オオクチバスの場合はどうだろう。
田畑・柴田の実験(※3)では、オオクチバスはその体長の62~72%の大きさのコイを捕食した。
さらにShireman(※4)らはフロリダバスにソウギョを与えた場合、バスの体長の42~68%が限界体長となることを報告している。
つまり、まとめると、スモールマウスでは自分の体長の約45%までのベイトを、ラージマウスであれば約60%までのベイトを捕食することになるようだ。
ルアーサイズ選びのイメージはついただろうか。50cm以上のオオクチバスしか釣りたくない!というなら、迷わず1尺(約30cm)あるあのルアーを使うべきなのだろう。
ここまではバサーの常識通りだろう。
しかし、バスはどのようにベイトにアタックするのか?ということを、正確にイメージできる釣り人は少ないのではないだろうか。先ほど紹介した片野らの実験では、もう一つ、別の側面から観察が行われた。
それによると、ベイトへのアタック方法や、アタックの成功率が明らかになっている。
「アタックさせやすい」釣りと「食わせやすい」釣りが明らかに
観察されたのは捕食の様子だ。
今回の実験においてコクチバスがウグイを襲おうとする行動は、4パターン観察された。
A. コクチバスが30cm以上離れた地点にいる2尾以上のウグイの群れに突入して捕食しようとする、「突撃型」のケース。
B. 底部で停止している単独のウグイに上部から近づき捕食しようとする、「忍び寄り型」ケース。
C. 停止していたコクチバスに10cm以内に近づいてきたウグイを捕食しようとする「待ち伏せ型」のケース
D. 水槽に入れた直後のウグイを捕食しようとした「リアクションバイト型」のケース
アタック回数でいうと、Aが非常によく起こっていたようだ。すべてのアタック回数の実に70%が、この突撃型のアタックだった。しかし、実際にバイトに至ったケースは観察されなかった。
つまり、アタックは試みたがバイトには失敗したということだ。
実際に口にくわえることができたのは、BやC、Dのパターンだけだった。
こうした知識を踏まえて、ルアーアクションのイメージをしてみよう。
捕食形態のAを意識したのがアラバマリグでしょ。スピナーベイトもその小規模版ってところか。アタック回数はトップクラス(70%以上)だし、30cm以上の距離から近づいた、というから、アピール力でいうとこれが1番なのかもしれない。
Bを意識するならワームのシェイキング。傷ついたベイトフィッシュがもがくように。実際に口にくわえる確率も高かったようなので、やはり定説通り「食わせやすい」アクションのようだ。
Cは?巻物なんかのファストムービングルアーはこのパターンなのかな。ちょうど目の前を通りすがりにアタックさせるイメージか。
Dは、たとえばルアーの着水地点のすぐそばにバスがいた場合に当てはまるかもしれない。あるいはバスのそばでルアーが思いがけないアクションをした時だ。ヒラを打たせる、ストップ&ゴーのような。
頭からのバイトが大半
論文では、先ほど紹介したA〜Dのようなアタック行動のうち、実際にバイトに至ったのは15回だったと報告されており、15回の捕食行動の時に、どんな食いつき方をしたのか?まで観察している。その内訳は
ウグイの頭部から咥える、呑み込む:10回 (66.7%)
尾部から呑み込む:4回 (26.7%)
腹部から咥える:1回 (6.7%)
となっていた。イメージでは下からアタックして腹、あるいは追いかけて尾からバイトするものと思っていたが、事実は(少なくともライブベイトの場合)ほぼ頭から一飲みなのだ。
我々の実釣でも、ミスフックがどのような状況で起こっているのかは知る由もない。しかしトレブルフックの付いたハードベイトで、腹や尾からバイトしたにも関わらずフックに掛からないって、どういうこと?と思っていたが、ひょっとしたらこの時バスは、頭からルアーにアタックして事なきを得たって事なのか。 するとルアー頭部のアシストフックは有効ってことになる。
これは一考に値するね。実際に海でのジギングでは頭部のアシストフックは普通に使われている。
クランクベイトやミノーのアシストフック。見た目は奇妙かもしれないが、是非とも試してみる価値はありだな。
フィールドで誰もやっていない釣法だって、釣れないと決まった訳じゃない。誰もやっていないからこそ、効果があるかも知れない。
まとめ
今回の観察によれば、
- デカバスにはデカいルアーを。オオクチバスであれば、自らのサイズの60%までのベイトに対しては口を使う。
- アラバマリグやスピナーベイトのアピール力はどうやら本物。しかしアタック回数の割にバイト成功は少ないことも確認されており、対策が必要だ。トレーラーのアピール力か、ヒラ打ちなどのバイト誘発アクションが重要となる。
- リアクションバイトは、けっこう起こる。バスがいるところピンポイントでキャストしたり、目の前でアクションさせてみるのも面白いかもしれない。
どうだっただろうか。意外な見解もいくつか出てきたが、こうやって科学的な知識をもとに、誰も知らない釣法を編み出してみるのもSmart Fishingの醍醐味かもしれない。
参考文献
※1:片野,青沼「コクチバスによって捕食されるウグイの最大体長」 (日本水産学会誌 2001; 67(5);)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/67/5/67_5_866/_article/-char/ja/
※2:Zimmerman MP “Food habits of smallmouth bass walleyes, and northern pikeminnow in the lower Columbia River basin during outmigration of juveniile anadromous salmonids. ” (Trans. Am. Fish. Soc. 1999; 128: 1036-1054; )
※3:田畑, 柴田「オオクチバスの生態に関する研究ーI. 飼育環境下における摂餌生態」(兵庫水試研報 1975; 51-62; )
※4:Shireman JV, Colle DE, Rottman RW ”Size limits to predation on grass carp by largemouth bass” (Trans. Am. Fish. Soc. 1978; 107: 213-215; )