魚のスレを科学する12 魚の『個性』に応じて釣れるルアーは変わる?

魚のスレを科学する12 魚の『個性』に応じて釣れるルアーは変わる?

魚が「スレる」要因のひとつに、生まれつき釣られやすい個体と釣られにくい個体がいることを紹介してきた(こちらの記事)。生まれつきの釣られやすさは何で決まるか? たとえば、安静時の代謝(血のめぐりのよさ)が高い魚ほどふだんから行動が活発で、仕掛けに反応しやすかった(こちらの記事)。個々の魚で生まれつきの体質には違いがあり、その違いが原因となって、行動面でも違いが生じたと言える。
では、逆に考えてみよう。ある状況におかれた2匹の魚の行動に違いがあったとする。(たとえば、並んで泳ぐ2匹の魚めがけてルアーを投げたら、一方は反応して飛びついたが、もう一方は反応しなかったと想像してほしい。)この行動の違いは、たまたま起こったものだろうか。あるいは、行動の違いには原因があり、似たような状況なら毎回同じように、2匹は違う行動を示すのだろうか。

魚の【個性】とは

私たちが日常生活で使う「個性」という言葉は、人それぞれのさまざまな違いを表現するときに、わりと幅広い意味合いで使われている。対照的に、動物の【個性】は、行動を観察して定量的に比べることではじめて定義される、きちんとした学術用語だ。

行動学での【個性(personality)】とは、動物の行動観察により判定される、個体ごとの行動の傾向である。硬い表現でいえば、「特定の状況に対する、環境によらない一貫した行動の傾向」と定義される。要するに、ある同じ状況におかれたときの魚のふるまいを1匹ずつ観察し、行動パターンを元にタイプ分けすることによって【個性】を決める、ということだ。(日常的に使われる言葉との無用な混乱を避けるため、行動学で扱う【個性】は「行動型(behavioral type)」と呼ばれることもある)

魚の行動を観察し、状況ごとの行動パターンを記録していく。こうして集めた、様々な状況での行動パターンの組合せを、一定の基準(たとえば、大胆さ・臆病さ boldness/shyness、社会性 sociality、攻撃性 aggression、など)に沿ってタイプ分けすることで、1匹ずつの【個性】を判定していく。「この魚は物陰からなかなか出てこないし、危険を感じるとすぐに隠れてしまう臆病なタイプ」「こっちの魚はいろいろな場面で、他の個体に近寄っていきがちな社会性の高いタイプ」といった具合だ。(もちろん、実際はすべてを数値化して比較・判定する。)

行動学の分野では、こうした魚の【個性】の研究が近年さかんに行われている。魚種ごとにどのような【個性】がみられるのか。それぞれの【個性】をもつ魚は、さまざまな状況下でどうふるまうのか。魚の【個性】(=行動の傾向)とかれらの体質(=生理面での特徴)にはどんな関係があるのか、などなど。
今日はその中からひとつを選び、個体の行動パターンや【個性】(=複数の行動パターンの組合せ)によって、効果的な釣り方が異なるか?を野生の魚で検証した、パイオニア的な研究を紹介する。

別々のルアーで釣られたバス100匹ずつの行動を観察

Wilsonらは、カナダのオピニコン湖でオオクチバス Micropterus salmoides とロックバス Ambloplites rupestris を100匹ずつ釣り上げ、活かしたまま実験室に運んでかれらの行動パターンを観察した。どちらの魚種も、100匹のうち50匹はハードルアー(クランクベイト)、50匹はソフトルアー(ワーム)で釣られた魚を実験に使った(図1)。

魚を1匹ずつ、行動観察用の水槽(図2)に放して自由に行動させ、【個性】のひとつ「大胆さ(boldness)」を知るために、以下の3項目の観察データを集めた。

(1)魚を放した隠れ家から初めて外に出てくるまでの時間、

(2)手網を徐々に近づけていった時、どこまで距離が縮まるとダッシュで逃げ出すか、

(3)手網(一定の速さで動かす)で捕まるまでの時間、

である。これらのデータをもとに、「違うルアーで釣られた魚は、3つの行動に違いがあるか?」を検証した。

すると、計測した3項目のうち、(1)隠れ家から出てくるまでの時間にのみ、有意な違いがみられた。どちらの種でも、ハードルアーで釣れた魚の方が、隠れ家から出てくるまでの時間が短かった(図3)。物陰からすぐ出てくる魚はハードルアーで釣られやすく、物陰から出てこない魚はソフトルアーで釣られやすかった、ということだ。

魚の【個性】によって、釣れるルアーは変わるか?

魚の【個性】のひとつの軸として、1匹の魚がどれだけリスクをとったか?を示す「大胆さ(boldness)」がある。Wilsonらは、今回計測した3項目(隠れ家から出てくるまでの時間、手網から逃げ始める距離、手網で捕まるまでの時間)を組み合せて「大胆さスコア」を算出し、1匹ずつの【個性】を表す「大胆さ」を判定した。

そして、ハードルアーで釣れた魚とソフトルアーで釣れた魚の間で「大胆さスコア」を比較したところ、両者に差はなかった。当初の予想に反して、今回の条件では釣れるルアーと魚の【個性】に明瞭な関係はなかったのである。

魚の【個性】にはいろいろな側面がある。今回とりあげた「大胆さ」を例にとってみると、
大胆な魚ほど、
・隠れ家から出てくるまでの時間は短く、
・逃げ切れるギリギリの距離に手網が近づくまで平気で、
・手網から長時間、活発に泳ぎまわって逃げ続ける
という傾向があった。

このうち、「隠れ家から出てくるまでの時間」だけに着目すれば、「物陰からすぐ出てくる魚にはハードルアー、物陰に長くとどまる魚にはソフトルアー」という関係が見いだせた。

しかし、他の2つの項目も総合した「大胆さ」として捉え直すと、「大胆な魚に効果的なルアーはこれ」と言える傾向はない。つまり、多くのデータを組み合わせて初めて見えてくる魚の【個性】は、私たちの考える「わかりやすい」行動パターンと、必ずしも1対1に対応づけられない、ということであろう。

紹介してきたように、研究の世界では、1つの問いをようやく解決したと思いきや、新たな別の疑問が2つも3つも生じることはしばしば起こる。釣りでも同様、自分の中で“必釣パターン”を確立したと思った矢先に、そのやり方が通用しない場面に出くわすことは多々あるものだ。

知ろうとするほど、わからないことが増えていく。

科学者も、釣り人も、確かにつかんだと思った瞬間するりと逃げていくその感覚に、すっかり魅了されてしまっているのかもしれない。そしてさらに。私にとってこの感覚は、長いファイトの末にようやく水面に姿を現した魚を取り込むその刹那、きらりと身を翻して水中に消えていく魚の姿とも、どこか重なるものを感じるのだ。

そんな一筋縄ではいかない魚の【個性】研究、次回以降も引き続き紹介していこう。

文献情報

Wilson ADM, Brownscombe JW, Sullivan B, Jain-Schlaepfer S, Cooke SJ (2015) Does angling technique selectively target fishes based on their behavioural type? PLoS ONE 10: e0135848.

書いた人

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。
専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。
 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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