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魚の「好奇心」と釣られやすさ

 釣りや魚捕りで手に入れた魚を水槽に入れてみると、かれらのふるまいは個体ごとに違っているように見える。落ち着かない様子であちこち泳ぎ回る魚もいれば、さっと物陰に入ったきり出てこない魚もいる。魚を飼ったことのある人なら、こうした光景に思い当たるのではないだろうか。

 行動学では、目新しい場所や物体に対するこうした魚のふるまいを「探索/回避 exploration/avoidance」というものさしで数値化し、魚の【個性】をあらわす軸の一つとしている。

 探索的(explorative)な個体ほど、見慣れない環境におかれたり、見慣れないモノを見かけた時に活発に動き回る(=探索的な行動)。反対に、探索的でない個体は、物陰にじっと隠れたり、見慣れないモノから距離をとったりする、といった具合だ。

 探索的(explorative)な個体ほど、見慣れない環境におかれたり、見慣れないモノを見かけた時に活発に動き回る(=探索的な行動)。反対に、探索的でない個体は、物陰にじっと隠れたり、見慣れないモノから距離をとったりする、といった具合だ。

 今回は、この「探索的」な行動と釣られやすさについての研究を紹介しよう。

実験の概要

 Härkönenらのグループは、放流用に養殖されているブラウントラウトを対象に行動観察と釣り実験をおこない、魚の個性(探索的かどうか)と釣られやすさの関係を調べた。

 かれらはまず、400匹のマスに電子標識(PITタグ)をとりつけ、1匹1匹を区別できるようにした。次に、検出器をセットした実験用の円形水路(図1)に魚を入れ、それぞれの魚の活動量を22日間にわたって記録した。

水路内には、上流側に1か所、底に白い板を敷いて上から明るい照明を当てた奇妙な区画がある。これは、エサの最も多く流れてくる最上流の区画に移動しようとするマスにとって「見慣れない」環境を用意するためだ。探索的な個体であれば、見慣れない環境であっても餌のために近づいてくるというわけだ。

 探索的な行動の指標としては、以下の3項目を計測した:(1)実験開始から3日後までの活動量(=探索率)、(2)実験中に観察された最大活動量、(3)実験開始後、活動量が落ち着くまでの期間、である。その後、マスを8つの池に放し、4日間にわたってフライフィッシングをして、個々の魚の「探索的」な度合いと釣られやすさの関係を調べた。


探索的なほど釣られやすい、が…

 まず釣りの結果をみると、最もフライへの反応がよかったのは初日で、池にいる魚の20%以上が針に飛びついたり、実際に釣れたりした。しかし、4日目には全体のわずか7%の魚しか反応をみせなかった(図2)。

次に、釣られた魚と釣られなかった魚で、探索的な行動の度合いを比べてみると、(1)“探索率”の高かった個体ほど、釣られる確率が高かった(図3)。


 いっぽう、魚の代謝のよさを示す「期間全体の平均活動量」や、魚のサイズなどは釣られやすさに影響せず、「見慣れない環境で探索的にふるまうかどうか」という魚の【個性】そのものが、釣られやすさと関係していたと結論づけることができる。

育つ環境でも【個性】は変化する

 ちなみに、実験の舞台となった養鱒場では、放流後のマスの生き残り率を高めるための試みとして、通常のコンクリ製の池とは別に、より“自然に近い”状態の池でも養殖をしていた。

 この“自然な”池では、底に砂利を敷き、池の中に仕切りを入れて流れと淀みを作った上で、季節に応じて流れの速さや向きを変えたり、大きな石や人工物で一時的に隠れ家を作ってしばらくあとに撤去したりと、変化に富んだ環境が再現されている。

 また、通常の池では人工餌料のみ与えていたが、“自然な”池では、養鱒場の上流にある湖から引いた水をそのまま使っていたため、水に乗って流れてきた昆虫や、水槽内で繁殖した水生昆虫もマスたちのエサとなっていた。

 こうした“自然な”池と普通の池のマス同士で、探索的な行動をみせる度合いや釣られやすさを比べてみたところ、通常の池で育ったマスは、見慣れない環境に移った直後から探索活動を多くみせた。また、統計的に有意な差は出なかったものの、“自然な”池で育ったマスよりも釣られやすい傾向があった。

 「養殖魚・放流魚は、天然魚と比べて釣られやすい」とよく言われるが、これは、変化のない均質な環境で育てられることで、魚たちがより探索的な行動をとりやすくなった、つまり、傍からみると「警戒心がなくなった」ためなのかもしれない。

 生まれもった体質だけでなく、育った環境も魚の【個性】に影響を与える可能性がある――魚の【個性】研究の難しさ、そして面白さは、こうした部分にもあるのかもしれない。

 前回は魚の「大胆さ boldness」を、今回は「探索的な行動 exploration」をものさしとして、魚の【個性】と釣られやすさの関係を調べた研究を紹介してきた。

 ここで、身近に実感できる例を挙げると……と言いたいところだが、たとえば釣り場にいる魚たちがそれぞれどんな【個性】をもつか、それを知り、さらに自分の釣りに活かす、となると、現実的にはなかなか難しいところだ。

 そこで、代わりにと言ってはなんだが、手頃な例として水族館の大きな水槽を思い浮かべてもらいたい。何匹もいる同じ種類の魚でも、1匹1匹じっくり観察して比べてみると、同じような状況に直面したとき(たとえば、近くに巨大な魚が寄ってきたとか、エサやりの時間になったとか)、個体ごとに少しずつ違った反応や行動をみせていることがある。(もちろん、どの魚も同じように振る舞っていた、ということも多々ある。)こうして目に見える違いがすべて【個性】の表れだとは言い切れないが、ひょっとすると、他の人がまだ気づいていない、奥深い魚の【個性】の一端を、感じとれた瞬間なのかもしれない。

 この冬、もし水族館を訪れる機会があれば、そんな視点で水槽の中を眺めてみてはいかがだろうか。

――吉田誠[国立環境研究所 琵琶湖分室・博士(農学)]

文献情報

Härkönen L, Hyvärinen P, Paappanen J, Vainikka A (2014)

Explorative behavior increases vulnerability to angling in hatchery-reared brown trout (Salmo trutta).

Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 71: 1900-1909.

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