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高ストレスな魚は、見慣れないモノが苦手?―育つ環境が行動を左右する

 先日、日頃ときどき訪れる魚屋で、淡水魚のカマツカが入荷されていた。調査地ではよく見かける魚だが、食材として白いトレーに乗せられると、ずいぶん違和感があった。最終的には買って帰り、塩焼きや干物にして美味しくいただいたのだが、予期しない状況で見慣れないモノが突然目に飛び込んできたためか、買い物カゴに入れるまで1分近くじっと考え込んでしまったのを覚えている。

 これと同じと言い切れるかはわからないが、水中の魚にとって、釣りエサやルアーはたいていの場合、「突然あらわれた見慣れない」物体である。こうした見慣れないものに対する反応の仕方は、その魚が釣れるかどうかにも深く関係するだろう。

 今回は、出自の同じ魚でも、育つ環境によって見慣れないものへの反応性が変わる例を紹介しよう。

見慣れぬモノへの反応性を調べる

 Champneysらは、10日齢のナイルティラピアを高密度(80匹)・低密度(20匹)の環境にわけて飼育し、6週間後に1匹ずつ行動を観察した。
 実験水槽には開閉可能な仕切りがあり、仕切りの手前側は馴らしゾーン(zone 0)、仕切りの向こう側を探索ゾーン(zone 1~3)としてある(図1)。馴らしゾーンにカバーをかけて陰を作ることで、仕切りを開けたあとでも魚の隠れる場所を確保することができる。そして、探索ゾーンの中央(zone2)には、魚が一度も見たこともない「新奇物体(novel object)」として、派手な緑色の模型を置いた。

 実験に使うティラピアは、高密度・低密度の水槽からそれぞれランダムに同数ずつ選びだした。仕切りの手前側にティラピアを1匹入れて10分間ならし、仕切りを開けてから15分間の様子をビデオで録画し、その間の行動を以下の5つの軸で分析した。

(1)大胆さ…馴らしゾーンから最初に出るまでの時間
(2)接近回数…新奇物体の2cm以内に近づいた(かつ触れなかった)回数
(3)攻撃回数…新奇物体に向かっていき接触した回数
(4)平均距離…新奇物体との距離(15分間の平均)
(5)活動度…各ゾーンの利用度合いの均等さ

これらの結果を総合し、初めて経験する事態に対するふるまい方(ストレス対処様式、coping style)を判定した。

ぎゅう詰めで育った魚は“物見知り”する

結果は図2の通り。

 低密度で育ったティラピアは、隠れ家からすぐに出て活発に泳ぎ回り、新奇物体に対しても近づいたりつついて攻撃したりと、積極的なタイプ(“順向”、proactive)だった。いっぽう、高密度で育ったティラピアは、隠れ家からなかなか出てこず、新奇物体にもあまり近寄らない受動的なタイプ(“逆向”、reactive)だった。

 ティラピアの養殖では、ぎゅうぎゅう詰めで飼育された高ストレスの魚は黒っぽい色になることが知られている。今回の実験でも、「高密度」で育てたティラピアの体色は「低密度」の魚に比べて黒ずんでおり、他個体との接触ストレスを頻繁に受けて育ってきたものと考えられた。著者らは、こうしたストレスが、不活発で受動的な行動パターンに結びついたのだろうと結論づけている。

 つまり、もとは同じ集団にいた魚たちでも、育つ環境によって、目新しい状況や見慣れないモノへの反応の仕方が変わってくるということだ。

「生まれ」「育ち」「状況」で様々に行動は変化する

さらにもうひとつ、興味深い実験結果を紹介しよう。

 ティラピアを実験水槽に馴らすとき、馴らしゾーンの上にカバーをかけた場合とかけなかった場合で、「高密度」で育てた“受動的な”魚の行動がガラッと変わったのだ。
 カバーありの場合、魚にとっては馴らしゾーンが隠れ家として機能する。そのため、探索ゾーンとの仕切りを開けたあとも、隠れ家からなかなか出てこなかった。

 いっぽう、カバーをかけなかった場合、実験水槽のどこにも陰ができず、隠れ家となる場所も無くなってしまう。このとき、どちらの密度で育てた魚たちも、仕切りが開くとすぐに探索ゾーンへと出てきた(図3)。

 同じ実験水槽で、同じ区画に魚を入れ、同じタイミングで仕切りをあけたとしても、隠れ家の中からスタートするか、隠れ場所のない状況からスタートするかで、行動の仕方が変わる。
 このように、ある【個性】をもつ魚でも、おかれた状況(=文脈 context)に応じて、まったく同じ環境の中で異なったふるまいを見せることがある、という点も、気に留めておくとよいかもしれない。

 いっぴき一匹の魚の行動がなぜ違うのか、その理由に迫ろうとする、魚の【個性】にまつわる研究は今も盛んに行われている。
「この状況なら、魚は(いつでも必ず)こう行動するはずだ」
「この環境で育った魚であれば(どの個体も)こう反応するだろう」
といった具合に、魚の行動に何かしらのパターンを読み取りたい、というのは、研究者だけでなく釣り人にも共通の願いであろう。そして、そんな思いをよそに、魚たちは今日も、時々刻々と変わる自然の中をたくましく、したたかに、そして柔軟に、生き抜いている。

 年始にあたって、「今年こそは、彼らの行動に関する理解が少しでも深められれば」と、研究者として、また、いち釣り人としても、思う次第だ。

――吉田 誠[国立環境研究所琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Champneys T, Castaldo G, Consuegra S, Garcia de Leaniz C (2018) Density-dependent changes in neophobia and stress-coping styles in the world’s oldest farmed fish. Royal Society Open Science 5: 181473.
http://dx.doi.org/10.1098/rsos.181473

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