バスの摂餌のトリガーは「空腹」なのか?

バスの摂餌のトリガーは「空腹」なのか?

ターゲットとする魚の摂食生態の知識は釣りの技術の向上に役立つと考えられるが、バスの摂餌の引き金となっているのは何だろうか?

例えば、釣り専業の漁師は通常、最初に釣り上げた魚の胃内容物を確認して、漁場の魚が何を好んで食っているかを知る。しかし、胃を開いたら簡単に魚が食っている物を確認できるとは限らない。空胃の魚が意外に多いのである。この話を聞くと、「摂餌の引き金になっているのは空腹であり、空腹の魚ほど釣れやすいから、釣れた魚に空胃の魚が多いのだろう」と考えられるかもしれない。本当にそうだろうか?

摂餌行動の引き金は「空腹」なのか

Vinson and Angradi (2001)によると、それまでに報告された魚の平均空胃率は26.4%である。この平均値は402種の369千尾の魚の平均である。もちろん空胃率の変動は大きいが、傾向として、空胃率は魚食性の魚で 高く、雑食性の魚で低い。また、夜行性の魚で高く、昼行生の魚で低い。このような傾向は分かったが、なぜ空胃率がこんなに高いのかについては皆目分かっていない。

話題をラージマウスバス(以後バスとする)に転じよう。長崎半島の川原大池のバスを調査した結果、年齢が1歳以上の魚では4−5月に空胃率が60−70%、6−7月に0−10%、8−9月には約50%であった。また、全長35 cmを越えるバスは全てが空胃であった(Azuma and Motomura, 1998)。春期は雄のバスが巣を護っているので摂食は少ないが、8−9月の高い空胃率の原因は不明である。一方、アメリカ合衆国イリノイ州のクラブオーチャード人工湖で181月間、電戟漁法で捕獲した991匹(体長17.5-48.3 cm)の胃内容物を調べた結果では、季節に関係なく空胃率は41−77%(平均50%)であった(Lewis el al., 2009)。やはりかなり高い数値だ。

この二つの事例を見るに、もしバスが空腹になった時点で摂餌を開始するなら、バスの摂餌の成功率はかなり低い、と推察される。本当にそうだろうか。

摂餌の成功率=餌となる魚の発見率 × その成功率

と考えられるから、発見率と成功率の両方が低ければ、バスの摂餌行動の成功率はかなり低いと考えられるだろう。

まずは、成功率に注目した研究を見てみよう。

摂餌成功率は決して低くない

水槽実験ではあるが、バスのミノウに対するアタック成功率を調べた例では76%であった(New and Kang, 2000)。意外と低い成功率の感じがするが、水草や沈木が多い湖の環境ではアタック成功率が高まるので、自然環境下ではもっとアタック成功率は上がるはずだ。

また、別な水槽実験では、バスのmosquitofish(メダカに似た淡水魚)に対するアタック成功率は95%以上と報告されている(McMahon and Holanov, 2005)。非常に高いが、アタック成功率を見るには捕食者と餌魚の遊泳能力を考慮しなければならない。Mosquitofishの平均遊泳速力は2 cm/sである一方、ミノウの遊泳速力は平均14 cm/s、最高33 cm/sと報告されており、両者で格段の差があるのだ。その上で76%と95%以上という成功率であるから、通常バスの摂餌成功率は決して低くない、と考えていいだろう。

では、餌となる魚の発見能力はどうだろうか。

側線と視覚がバスの索餌能力を支配する

 

バスは視覚と側線感覚で餌魚の存在を感知し、0.001ルクスの明るさ(星明かり)でも餌を視認できるが(McMahon and Holanov, 2005)、側線が機能しなければ視覚が正常でもバスは近くの餌魚でもミスアタックが激増する(New and Kang, 2000)。

例えば、Chinese bassという俗名をもつred drumは、側線を閉塞すると直ぐ近くの餌魚にもアタックしなくなる(Chiu and Chang, 2003)。

また、魚食性のバスは琵琶湖ではヨシノボリを選択的に捕食し(杉浦•田口, 2012)、クラブオーチャード人工湖では gizzard shad (ニシン科の魚)を専ら捕食している(Lewise and Heidinger, 2009)。

もしも、これらの餌魚の遊泳で生じる水粒子の動きが、バスの側線探知機能(周波数と強さ)を越えるものであれば、バスは感知できない。魚の側線の周波数感知域は数Hzから数十Hzである(Montgomery, 1994)。また、側線は非常に感度がよく0.03 mm/s 以上の水流であれば感知できる(Bleckmann, 1993)。魚の尾鰭の振れの周波数は通常数Hzであるので、バスは餌魚の動きを十分感知できるはずである。
つまり、側線は充分に機能した状態で摂餌を行っており、索餌能力もやはりそう低くはないと考えられる。

発見率も成功率も低くないとなると、空腹は摂餌のきっかけとなってる訳ではない、と結論づけられる。空腹をきっかけに摂餌を開始するのであれば、それらの個体はすぐに摂餌に成功し、空胃ではなくなるからだ。

じつは、餌としてmosqiutofishを満腹するまで与えて、バスの満腹度とアタック成功率の変化を調べた水槽実験では、満腹度が進むにしたがってアタック成功率が指数関数的に低下した(Sass and Motta, 2002)。満腹度が進むにしたがって口の開きが小さくなり、顎の骨の動きが鈍くなるのが、アタック成功率が低下する原因であった。しかし、この実験では、動きの鈍いmosqiutofishを透明な筒を通してバスの口の前に与えていて、口の動きしか解析されていない。アタック成功率には餌魚を知覚してからアタックに至るバスと餌魚の全ての動きが関わるので(Yasugi and Hori, 2012)、この実験例だけから「空胃個体は釣れ易い」という結論は出せない。実際に、「満腹のバスがルアーで釣れるのは稀なことではない」という研究がある(Lewis el al., 2009)。

摂餌行動のトリガーは「側線への特定の刺激」

それでは、バスの摂餌行動のきっかけは一体なんだというのだろうか。

私の考えは、側線にアタック行動を引き起こす刺激が与えられると、空腹や満腹に関係なくバスは条件反射的に刺激物をアタックする、というものである。

バスは本物のワームを決して食わないが、プラスチックワームならアタックする。その理由は、満腹バスがルアーにアタックする理由と共通なものであると私は考えている。バスの摂食感覚は視覚と側線感覚が重要であると既に述べた。このように、条件反射のような行動を引き起こす刺激を「鍵刺激」という。これと似た考えを持っていたバス研究者は他にもいた(Lewis el al., 2009)。その鍵刺激は、水粒子にある特定の周波数と強さの変化をもたらすルアーの動きであろう。

具体的なその周波数と強さは私には見当がつかないが、今後、スマートルアーによるデータが蓄積されるとその鍵刺激のヒントが得られると期待している。

実際に釣りをする諸君にも、「なぜか釣れるルアー」「なぜか釣れるアクション」というものがあるはずだ。きっとその中には、側線への刺激の鍵を握るものが含まれているだろう。

書いた人

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。
私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。
魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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