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魚のスレを科学する13 餌よりもルアーの方が学習されやすい?

 

 以前の記事で紹介しているように、「学習」という現象も魚のスレに関係していた。例えば、この記事ではブラックバスがどのようにして、釣り針やルアー、エサを学習するのか?を取り上げた

魚のスレを科学する3 ブラックバスがスレないエサは?

今回はさらに掘り下げて、ルアーとエサに対する学習のしやすさの違いを調べた研究をとりあげよう。

実験の概要

 Beukemaは、ノーザンパイク(Esox lucius )を池に放し、ルアーとエサ釣りのそれぞれで、パイクが学習によってどれだけ釣れにくくなるかを検証した。

 使う仕掛けは全員で共通とし、ルアー釣りでは赤い縞の入ったスピナーを使った。エサ釣りでは、小型のフナに似たローチという魚を活きたまま針にかけてエサとした。放流したパイクには全て標識をつけてあり、釣り上げたパイクは番号チェックと体長計測をしてすぐに池に戻した。

 まず1日目、58尾のパイクを池に放し、5人の熟練した釣り人がルアー・エサ釣りそれぞれで釣りをした(1回目)。続いて2日目は、追加で19尾のパイクを同じ池に放し、初日と同様に釣りをした(2回目)。釣果は、釣りの仕掛けを見た経験がある魚(1日目からいる“初期個体”)と、初めて仕掛けを目にする魚(2日目に放流した“追加個体”)で別々に集計した。さらに一週間後、2日目と同様の釣り実験をした(3回目)。この3度目の実験の終了後には池の水を抜いてすべてのパイクを回収した。

パイクはたった1日でルアーを学習する

さて、“初期個体”が釣れた数を整理してみると、エサ釣りでは3回の実験を通じて安定した釣果があがったのに対し、ルアー釣りでは2回目以降ほとんど魚が釣れなかった【図1】。


 また、2回目の実験の釣果を初期個体(前日にルアーを経験)と追加個体(ルアー初見)で比べてみても、初期個体の釣果は有意に低かった。たった1日、同じルアーを投げ続けただけで、パイクが極端に釣られにくくなったと言える。

すこし別の角度からみてみよう。

 3回の実験でパイクの釣られやすさが変化しない(=学習しない)場合、個体ごとの釣られた回数は「ポアソン分布」に従うとされる(→「スレ」連載第2回参照)。これは簡単にいうと、パイクが釣られるか?、釣られないか?はあくまでランダムに決まっている、ということだ。

 そこで、エサ釣りとルアー釣りでそれぞれグラフを描いてみると【図2】のようになった。

 エサ釣りでは、実際のデータがポアソン分布とほぼ一致していることがわかる。つまり、「どの個体も3回の実験を通じて釣られやすさは同じだった」ということだ。いっぽう、ルアー釣りではポアソン分布に従っていない。これは、釣られやすさがランダムではない、つまり「何かの原因で3回の実験で釣られやすさは違っていた」ことを意味する。この原因はやはり、エサ釣りでは学習の効果はみられず、ルアーに対してのみ、回避するよう学習が成立したからだと考えるのが妥当だろう。

釣り上げられなくても学習する?

ここで、ひとつ気になる結果がある。

 初期個体57匹のうちルアーで実際に釣り上げられたのは、3回の実験を合計してのべ28匹だった。残りの29匹以上は学習する機会がなかったはずなのに、2回目以降の釣果は劇的に少なくなっている。これはなぜだろうか。

著者のBeukemaは、針にかかった魚が途中で逃げる「釣り落とし」に着目した。

 釣り人たちのルアーにかかったパイクの約半数は、ファイト中に針を外して逃げていた。逃げた魚がどの個体だったか知ることはできないが、ルアーで2回以上釣られたパイクがわずか1匹(全体の1.8%)しか居なかったことを考慮すると、「ルアーに食いついて針にかかった」経験を1回でもした魚は、その記憶を元にルアーを避けるようになった、というわけだ。

 そこまで敏感に針がかりを学習するのに、エサではどうしてスレなかったのだろう?

生きた小魚はルアーに比べて、その存在感や動きでより多様な刺激(視覚・嗅覚に対する刺激や、水の振動など)を生み出す。Beukumaは、エサがパイクに学習されにくかった原因はこれなのではないかと結論づけている。

たしかに、パイクの主なエサは生きた小魚であり、パイクはそれらのエサが出す刺激をより早く正確に検出し捕らえるよう特化しているのだから、ある意味当然とも言えよう。

 どうしてもルアーで釣りたい、という釣り人の目線で考えると、スレを回避するには「できるだけ複雑な刺激を魚に与えてやる」ことが重要なのかもしれない。

学習による「スレ」には、様々な魚に共通する一般性がある

今回紹介した実験では、「ルアーの方がエサよりも早く学習(警戒)される」ことが明らかとなった。以前の記事でも、「釣り場のコイは針がかりの経験から学習し、針についたエサを避けるようになる」例を紹介した(今回と同じ著者による、ほぼ同時期の実験だ)。

 おもに植物性のエサを食べるコイでも、魚食性のパイクでも、「釣り針や仕掛けを学習する」という結果が得られたことは、魚が学習によって釣れにくくなる「スレ」が色々な魚種に当てはまるであろうことを示唆する。

 それでは、この学習はどのような状況で、どんなメカニズムで起こりやすいのだろうか。

次回以降、魚の(針についた)エサに対する学習について、詳しくみていくことにしよう。

――吉田 誠[国立環境研究所 琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Beukema JJ (1970) Acquired hook-avoidance in the pike Esox lucius L. fished with artificial and natural baits. Journal of Fish Biology 2: 155-160.

編集部より

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