魚のスレを科学する14 エサの「違和感」が魚を慎重にする

魚のスレを科学する14 エサの「違和感」が魚を慎重にする


釣りの仕掛けを準備するときに、釣り人がいちばん気を遣うのはどこだろうか。

もちろん、狙う魚種や行く釣り場によって、また人によっても千差万別なのは間違いない。だが、ひとつの共通する考え方として「食いついた魚が違和感を覚えないか」という観点がある。

たとえば、ハリスの太さや長さ、使うウキの大きさや形状、釣り針の大きさ、エサの付け方など、こだわるポイントを挙げればきりはないのだが、どれも魚に違和感を感じさせないための配慮と言えよう。

いっぽう、魚はどの程度、この「違和感」を気にしているのだろうか。あるいは、どんな要因が魚に違和感を与えるのだろうか。

今回は、釣りエサに食いつく魚の行動をつぶさに観察し、かれらが釣りの仕掛けを学習して釣られにくくなる過程を追いかけた研究を紹介する。

釣りエサへの「食いつき度」を点数化

Fernö & Huse (1983) はタイセイヨウタラ(Gadus morhua)をドーナツ状の回流水槽で飼育し、漁業で使われる「はえ縄」仕掛けに対する行動を詳細に観察した。

仕掛けは北海で行われるタラ漁と同じように、はえ縄の幹糸(道糸)から40cmの枝糸(ハリス)を延ばし、釣り針に輪切りのイカをつけたものを使った。15−20匹のタラが泳ぐ水槽内に仕掛けを10分間投入し、釣りエサに食いつこうとするタラ1匹1匹について、細かな動作の内容と順番を記録した。さらに、それぞれの動作の激しさを点数化し、1匹の魚がエサに対してみせた反応の強さ(食いつき度)を比較した。

タラの行動タイプ(11通り)と、それぞれの反応の強さ(0〜7点)は以下の通り。

[1点]接近…エサに向かって近づくが、エサに触れる前に方向転換
[2点]味見…口先やひげで2秒以上エサに触れる
[3点]不完全な食いつき…エサの一部だけくわえる又は口からエサがはみ出している
[4点]食いつき…エサ全体を吸い込んで口を閉じる
[5点]ひっぱり…エサをくわえたまま糸を引っぱって泳ぐ
咀嚼…エサをくわえたまま口をもぐもぐ動かす
反転…エサをくわえたまま頭を大きく振って方向転換する
首振り…エサをくわえたまま頭と体を左右に震わせる
[6点]突進…エサをくわえたまま前方に速く泳ぐ
[7点]針がかり…エサをくわえたまま20秒以上激しく暴れる
[0点]ハズレ…エサが口の外に出る

この実験を1日5回、10−17日間にわたって続け、魚たちの行動が日数とともにどう変化するかもあわせて調べた。

釣りエサに「慎重に」食いつくようになった魚たち

さっそく結果をみてみよう。

各行動タイプがのべ何回みられたか、日ごとに集計したのが図1だ。実験開始から数日は、スコアの高い(激しい)動作が多くみられたものの、途中からはスコアの低い動作が大半を占め、針がかりする個体はほぼ居なくなった。特に、「接近」「不完全な食いつき」が増えており、魚が釣りエサに対して慎重に振る舞うようになった様子がみてとれる。

 

図2では、1匹のタラが「エサ発見〜針がかり又は立ち去るまで」に見せた一連の動作の合計点を、初めてのエサ発見(1回目)から20回目のエサ発見まで、集計している。
どのタラも初回は高い点数を出しており、1回目はエサに対して激しい食いつき動作を多くとっていたことがわかる。
しかし2回目、3回目とエサとの対峙機会が増えるにつれて、点数は徐々に下がっていき、16−20回目では、初回と比べて点数は約3分の1にまで落ち込んだ。

つまり、回を重ねるとタラは釣りエサに対して激しい動作をあまりみせなくなり、「接近/味見/不完全な食いつき」といった慎重な動作が大半になった、ということだ。

針がかりの経験がなくても慎重になる

興味深いのは、過去に針がかりしたことのないタラも、釣りエサと対峙する回数が増えるにつれ、慎重な動作が多くなっていたことだ。この変化の原因は、一体何だろうか。

最大の要因は、釣り針の先端の感触(刺激)によるものだろう。別の研究では、小魚をエサとするパイクやパーチに、ひれに鋭いトゲのあるトゲウオを与え続けると、エサへの食いつき動作が鈍くなることが知られている。

今回の実験で使ったタラも同じように、釣りエサに食いついた時の硬く尖った針先の感触を嫌って、おそるおそる食いつくようになったのだろう、ということだ。

しかし著者らは同時に、「タラは釣り針そのものを認識しているわけではない」とも述べている。実験後のタラに針のついていないエサ(イカの輪切り)を与えたところ、彼らは相変わらず、エサに対して慎重な動作をとり続けた。

これは、「目の前のエサの様子が不自然かどうか(針がついているかどうか)」ではなく、「(過去の経験をふまえて)そのエサに勢いよく食いついても大丈夫そうか」という判断に基づいて行動していたためと考えられる。

つまり、タラは硬い感触のあるエサを何度か経験したことで、エサへの食いつき方を改変(modification)した、と捉える方が、実情を正しく反映しているかもしれない。

「違和感のない仕掛け」のヒント

さて、ここまでは魚の視点で釣りエサの「違和感」について見てきた。では、タラをうまく釣るにはどうすればよいだろうか。
釣りエサへの食いつき方が変わった原因は「釣り針の先端の感触」だった。ならば、針先が魚の口内に当たらなくなれば、食いつき方も慎重にならず、針がかりもしやすいはずではないか?

こうして考案されたのが「ネムリバリ」、英語で circle hook と呼ばれる針だ。これらは、通常よりも針先を内側に曲げることで、先端の尖った部分が口内に触れにくくなっている。その分、魚の口に一発では刺さりにくくなってしまうが、魚に余計な学習のための刺激を与えない。そのため、同じ海域に何度も仕掛けを入れる大規模なはえ縄漁では、釣れる期間のより長く続く仕掛けとしてすっかり定着しているそうだ。

魚に違和感を与えない仕掛けを使えば、魚に学習する機会を与えず、同じ仕掛けを長く使い続けられる。
逆に、魚に何かしらの刺激(違和感)を与えがちな仕掛けだと、最初は良くても、学習によってすぐに釣れなくなり、次々と仕掛けの作り方を変える必要が出てくる可能性もある。
魚の行動が変わるのが先か、釣り人が仕掛けを変えるのが先か…これもまた、魚と人の根比べ、と呼べるのかもしれない。

––吉田誠[国立環境研究所琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Fernö A & Huse I (1983) The effect of experience on the behaviour of cod (Gadus morhua L.) towards a baited hook. Fisheries Research 2: 19–28.

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