ルアー選びで悩む、その前にールアーはどれだけ釣果を左右するか

ルアー選びで悩む、その前にールアーはどれだけ釣果を左右するか

 初夏の琵琶湖の風物詩ともなっているハス釣り。この釣りでは、昔から「銀のスプーン」が定番中の定番だと聞いていた。それゆえ、私自身は特に深く考えずにスプーンをいくつか買って使っている。しかし、知人にその話をすると「え?スプーン?フィッシュイーターならやっぱりミノーか、シャッド系のソフトワームでしょ」とまさかの一蹴。

 たしかに、小魚らしい見た目の方が釣れそうな気もするが、地元の人が今も昔も「銀のスプーン」と口をそろえるのにも、それなりに理由があるはず…。

 所変わってヨーロッパでも、これと似たような話があるようで、ルアー釣りの対象として人気のパイク(ノーザンパイク Esox lucius)にどのルアーを使うか、昔ながらのスプーンと最近流行のソフトワームで論争(?)が続いているらしい。いったいどちらが優れているのだろうか?あるいは、ルアーが変わったくらいでは釣果に差が出ないのではないか?実際に釣り場で比較した結果を見てみよう。

パイク釣り場を徹底的に解剖!

 ドイツの魚類研究者Arlinghausらは、ベルリン郊外にある一周2kmほどの池を選び、水中の地形や植生を入念に調べたあと、約100メートル間隔でくまなく釣り区画を設定した【図】。

 

 その後、すべての区画(なんと30地点!)でスプーンとソフトワームの両方を使ってパイクを釣り、それぞれの釣果を比較した。

 実験のおもな目的は「どちらのルアーを使えばよりパイクを釣れるか」を確かめることだったのだが、念のため、釣果を左右しそうな他の項目(季節、天候、時間帯など)も記録しておき、ルアー以外に釣果に影響を与える要因があるかも同時に検証した。

釣果を左右したのは季節、釣り場所、その次にルアー

 検討した項目の中でもっとも影響が大きかったのは、季節の要因だった。釣り実験をした2つのシーズンで比べると、9月の方が5月よりよく釣れていた。温暖で風の弱い日はあまりパイク釣りに向かないとされており、今回の実験でもこの傾向が確認できたようだ。
次に影響があったのは、釣り場の水深である。パイクは水草の茂った浅い水域でエサをとり、それ以外の時間も水草の茂みに隠れて過ごすことが多い。実際に、浅い釣り場の方がより釣果がよかった。

 そして、気になるルアーの影響は、これら2つに次いで3番目。伝統的に使われてきたスプーンよりも、小魚型のソフトルアーの方がよい釣果があがっていた。著者いわく「より自然な見た目のソフトルアーの方が誘引力があったか、もしくはスプーンよりも学習されにくかった可能性がある」とのこと。より“釣れる”ルアーの開発を続けてきたルアーメーカーのたゆまぬ努力は、確かに実を結んでいると言えるだろう。

ルアー選びに没頭するのもよいけれど

 ルアーの違いは、たしかに釣果に影響していた。しかし、その影響(効果)の大きさをよくみると、先にあげた「季節」「水深」の2つと比べて非常に小さいものであった。ルアーが違えば釣果も若干は変わってくるのだが、それ以上に、パイクの釣れやすい時期かどうか、パイクのいる場所で釣りをしたかどうか、の2点の方が、よほど釣果に差が出たということだ。


 ルアーの種類と同様に、釣り人ごとの違い(=“腕”の差)と、地点の違い(水深や植生以外の条件)も、釣果と有意な関係性はあったものの、非常に微々たる差しかもたらしていなかった。
 つまり、ルアーの種類や釣り人のテクニック、地点ごとの細かな環境の違いなども多少は釣果に影響するものの、それよりも「適切な時期に、パイクのいる場所を的確に選んで釣ること」こそが、パイクを釣り上げるために最も大事な要因だ、ということだ。

釣りをする時間の長さも大切

 今回の実験は、以前に紹介したパイク釣りの研究と食い違う点がいくつかある。
たとえば、Kuparinen et al. (2010) の実験で釣果に影響すると結論づけられていた「天候」と「時間帯」は、今回は影響なしと判定された。これは、実験した1週間の中で天候の変化が少なかった(2回とも、おだやかな晴れ続きだった)ことと、結果を解析するときに「15分間で何匹釣れるか?」というごく短時間の釣果を予測する統計モデルを使ったため、と考えられた。(たとえば、10時をはさんだ前後15分ずつの釣果を比べるのに、天候や時間帯はほぼ影響してこないだろう。)
 Kuparinenらの実験では、季節を通じて色々な日に釣りをしてみて、もう少し長い時間の区切り(15分ごとの釣果でなく、1日の釣果)で比較した結果、昼間よりも朝方や夕方、おだやかな晴れの日よりもやや風のある日に、平均的にみれば多くの釣果が期待できる、という結論を得ていた。

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 この“時間区切りの長さ”は、実はけっこう大事だ。たとえば、竿を出せる時間が15分間しかない場合、何匹の魚が釣れるだろうか。統計的に考えれば、より“もっともらしい”予測は「ゼロ」になる。10分や15分といった短時間で釣れる魚の期待値は、“ほぼゼロ”――では、釣果を増やすにはどうすればよいのか。論文の著者らの答えは単純明快だ。「釣りに費やす時間を、できるだけ長くとりなさい」。

“正論”に込められたメッセージ

 釣りに確率的な要素(=“時の運”)が大きいのは誰もが実感するところであろう。では、半ば運まかせとも言える釣りで成功する最良の方法は?――「適した時期に、魚のいる場所に仕掛けを投げること、そして、できるだけ長い時間、釣り糸を垂れること」。


 …こう言われてしまうと、あまりの正論にぐうの音も出ないのだが、あえて逆に考えてみたい。時期・場所・釣り時間の3つ以外の要素(たとえば釣り道具、テクニック、使うルアー、気候、時間帯)も、長期的にみれば、一日の釣果には影響するのだ。それならば、こう言い換えることもできるのではないか。

「釣りに鉄則は存在する。それでも、道具やルアー、時間帯など、釣り人が各々大事にしている“こだわり”を捨てる必要も、決してない」。

屁理屈のようだが、科学的に裏付けられた“正論”に、こうしたエールを読み取ってみるのも、悪くはないのかもしれない。

――吉田誠[国立環境研究所琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Arlinghaus, R., Alos, J., Pieterek, T., Klefoth, T. (2017) Determinants of angling catch of northern pike (Esox lucius) as revealed by a controlled whole-lake catch-and-release angling experiment—The role of abiotic and biotic factors, special encounters and lure type. Fisheries Research 186: 648–657.

 

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