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魚にとって“見えやすい”ルアーとは―色のコントラストと学習

関西出身の先輩に連れられ、初めてスズキ(シーバス)のルアー釣りをした時のこと。
「好きなの選んでええで」と、揺れる船上でルアーボックスを渡されたものの、どれを選べばいいのかさっぱり見当がつかない。
 できるだけ、エサの魚に似ている姿の方がよさそうだ。でも、赤だのオレンジだの、やたらと目立つ色だったり、金色にピカピカ光るのもある。派手な色で、水中でもよく目立つ色がいいのだろうか…。

 釣り人はそれぞれ、さまざまに思考を巡らせてルアーの色を選んでいる。実際、ルアーの色によって釣果に差が出るのも確かなようだ(以前の記事参照)。

大物バス狙いには明るい色?—ソフトルアーの色が釣果に及ぼす影響

 水中にいる魚たちは、ルアーの色をどう認識して食いついているのだろうか。今回はルアーを使った、とある室内実験を紹介しよう。

背景色をかえて、5色のルアーへの反応を観察

 岡本ら(2001)は、スズキ Lateolabrax japonicus がエサとして好む色を調べるため、鹿児島県内を流れる万瀬川で釣れた10匹のスズキ(体長15-20センチ)を水槽に入れ、色とりどりの擬似餌に対する反応を調べた。

 ニジマスを対象におこなわれた海外の先行研究では、エサを置く場所の背景色によって魚からの選択度合いが変化することが報告されている(Ginetz and Larkin, 1973)。そこで岡本らは、実験用水槽の壁全面に色付きのビニールシートを貼りつけることで、背景色と疑似餌の色をさまざまな組み合わせで試せるようにした。

 5色のビニールテープ(白、赤、緑、青、透明)を筒状にまるめた擬似餌を各色5個ずつ、計25個用意し、すべてを同時に水面に投入して、投入直後からの魚の反応をビデオ撮影で記録し、各色の疑似餌への食いつき回数を集計した。
 この実験を、ひとつの背景色につき20回ずつ、4つの背景色(白、赤、緑、青)でおこない、どの色の組み合わせで最も食いつき回数が多くなるかを検証した。

背景とのコントラストが決め手

 まずおおまかに結果を述べると、スズキは特定の色のルアーを選んで食いついたが、選ばれるルアーの色は背景色によって違っていた。詳しくみてみると、
・背景が白いときは、緑のルアーが最も食いつき回数が多く、
・背景が赤・青のときは、白いルアーの食いつき回数が最も多く、背景と同じ色のルアーでは食いつき頻度が低かった。

 次に、水槽の壁に貼ったビニールシートとルアーの色から、コントラスト(反射率の差)を算出したところ、
・緑のルアーは白背景に対するコントラストが2番目に大きく、
・白のルアーは赤・青背景に対して最大のコントラストを示した。
つまりスズキは、背景色に対して最もハッキリ見える色のルアーに食いついたというわけだ。

目立たないはずの透明色も好成績

 意外なことに、どの背景色の実験でも、水中で見えづらいはずの透明色に対する食いつき回数は安定して多かった。ルアーの色だけに注目して食いつき回数を集計すると、なんと白のルアーについで2番目に多かったのだ。
 透明色のルアーはほぼ光を透過してしまい、反射率が測定不能なほどであった。これだけ視認しづらいはずの透明色ルアーに、なぜスズキは食いついたのだろうか。

 1つの可能性は、スズキが非常にコントラストの低い物体まで視認できる、というもの。ヒトの目には見えにくい透明なルアーも、スズキにはかなりハッキリ見えていた可能性がある。
 もう1つの可能性は、野生下におけるエサの学習効果である。実験に使った体長20センチ前後のスズキ(“セイゴ”と呼ばれるサイズ)は、アミ類やエビ、魚の稚魚など透明か半透明に近い生物を主なエサとしている。野生下でこれらのエサの見え方を学習し、透明な物体に対してより強く反応するようになっていた可能性も考えられる。

 スズキはハッキリと目立つ色のルアーに食いつきやすい。いっぽうで、普段から見慣れた透明の物体にも、つい食いついてしまう、と考えるのが自然だろう。

ルアーの色選びの“正解”

 冒頭の話題に戻ってみよう。スズキをルアーで釣るには、水中で目立つ色を選ぶべきか、できるだけエサに似せるべきか。
 色とりどりのルアーからどれを選べばよいか皆目見当もつかない中、結局、いちばん「普通の魚っぽい」ミノーを選んだ私は、その日、人生はじめてのスズキを釣り上げることになった。
 その場では、自他ともに「ビギナーズ・ラック」「マグレ当たり」と納得していたのだが、ふだんのエサと似た色のルアーを使った私はきちんと「正解」を選べていたのだ(というより、おそらくどちらに転んでも「正解」だった)。

 しかし、その後はあちこち船を走らせながら数時間粘るも、船中の釣果0本。私が釣り上げた1匹を最後に、とうとう最後までスズキの姿をみることはなかった。
 たとえ魚の習性に合わせて“正しく”ルアーを選んでも、必ずしも釣れるとは限らない―これもまた、釣りにおけるひとつの“正解”なのかもしれない。

 いまでもルアー釣りに行くたび、頭の中には“釣果ゼロ”の予感が常にちらついている。それでも、自分で選んだルアーで狙い通りに釣れる瞬間は、何度味わってもよいものだ。そしてときには思ってもみなかった形で、魚が釣れることもある。
 正解が決して一つではない、というのもまた、釣りの醍醐味なのだろう。

――吉田誠[国立環境研究所琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

岡本一・川村軍蔵・田中淑人 (2001) 異なる背景色におけるスズキのルアー色の選択.日本水産学会誌 67: 449–454.
Ginetz RM, Larkin PA (1973) Choice of colors of food items by rainbow trout (Salmo gairdneri). Journal of the Fisheries Research Board of Canada 30: 229–234.

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。 専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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