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ラージマウスバスの釣られ易さとスレについて報告されている3つのこと

 ラージマウスバス(以下バスとする)の棲息密度を知る簡単な手段は釣獲データである。バスを釣り続けると釣獲率が下がることが知られている。 キャッチアンドリリースを完全に行い、、バスの数は変わらないのに、釣獲率が下がる。これなぜだろうか?

 棲息密度の低下に先んじて急激に釣獲率が下がることは様々な魚種で知られている。釣獲率の低下が必ずしも棲息密度の低下を示さないことが管理者を悩ましている。ニジマスやティラピアでは、群れの中に釣られ易い個体と釣られにくい個体がいて、釣られにくい魚が釣れ残るので、釣獲率が急激に下がる(米山他, 1994; 1996)。そしてティラピアでは釣られ易さ(あるいは釣られにくさ)の性質は次世代に遺伝しない(米山他, 1997)。しかし、北海道の厚田川で自然繁殖したニジマスとヤマメではキャッチアンドリリースによるスレの影響は検出されていない(坪井他, 2015)。それではバスはどうであろうか。

バスにおいて確実にスレは遺伝する

 ここで紹介する研究は米国イリノイ大学のD.P. Philipp らがイリノイ州の湖で行った研究成果である。バスには釣られ易さ(vulnerability to angling, VA)に個体差があり、それは遺伝するということが明瞭に示された。

 実験方法はこうだ。3年間、同じバスの集団に対して釣りを続ける。この釣りはキャッチアンドリリース方式で行う。こうして繰り返しキャッチアンドリリースをされることで、ある個体は一度も釣られなかった一方で、ある個体はなんども繰り返して釣られ、20回釣られた個体もあった。こうしたバスの集団の中から、5回以上釣られたバスを釣られ易い(高VA)バス、一度も釣られなかったバスを釣られにくい(低VA)バスに選別し、それぞれ高VAバスと低VAバスの子孫を三世代続けてつくった。二世代目(F2)は一世代目(F1)の高VAバスと低VAバスの子孫である。三世代目(F3)も同様である。それぞれ同じようにキャッチアンドリリースをを繰り返したところ、図1のような結果になった。低VAのバスは、世代を重ねるごとにどんどん釣られづらくなっていることがわかる。釣られにくさは遺伝するのである。

図1選択的に作られた三世代のラージマウスバスの釣獲率変化 釣獲率=釣獲尾数⁄時間⁄バス収容数⁄湖面積(ha) (Philipp et al., より)

 

スレを回避するには何が有効か?

 Philipp et al. (2015) はさらに、実験を続けた数湖で繁殖行動中の雄バスを対照にキャッチアンドリリースを行い、釣られ易さを調べた。それを纏めたものが表1である。

表1 湖の釣り利用状況別の雄バスの釣られ易さ(Philipp et al., 2015より) 未利用、アングラーに解放されていない;季節的利用、季節限定で解放;周年利用、バスの繁殖期も含めて周年解放

  バスアングラーに解放されている湖では、繁殖期の雄バスのあるものは過去にリリースを経験したであろう。高VAバスと低高VAバスは五世代にわたって作出したものである。釣られ易い高VAバスはキャッチアンドリリースを経験しているが、高VAバスのヒット率はリリース未経験の未利用湖のバスのヒット率より明らかに低い。つまり、元々の釣られやすさがあっても、釣り針を学習しているかどうかがヒット率に影響したため、結果として未利用湖の方が釣られやすい個体が多かったということである。

数ヶ月の休止期間で一時的に回復する可能性 

  これと同じような結果は、ミシガン州の6つの人工池での実験でも出ている。ここでもバスのキャッチアンドリリースを続け、明瞭な釣獲率の低下があった(Wegner et al., 2018)。興味深いことに、キャッチアンドリリースを繰り返した後に8週間の休漁期間を置いたところ、その直後に釣獲率が一時的に回復したが、直ぐに以前の低いレベルに戻ったのだという。

 しかし、Sass et al. (2018) がアメリカ、ウィスコンシン州の湖で行った実験結果は他の研究者たちのものと違っている。彼らは 2001−2005年の5−9月、毎週1回キャッチアンドリリースを行い、釣られたバスには標識を付けて放流した。その結果、C&Rはバスの成長、年齢構成、生残率および釣られ易さに何ら影響はないと結論した。ここで彼らの結論を検証したい。図2は彼らが示したキャッチアンドリリースで繰り返して釣られたバスの釣獲データである。n回目とn+1回目(例えば1回目と2回目、2回目と3回目)に釣れたバスの尾数は、ほぼ一定の割合(35−53%)で減少している。

図2 繰返し釣獲の頻度分布(Sass et al., 2018より)

この事から彼らは、一定の確率で釣獲されているのでキャッチアンドリリースはバスを釣られにくく していない、と説明し、27年間に 1匹のバスが22回も繰返して釣られ例(Cline et al., 2012)を示して自説の正しさを強調したが、私はこの説明に納得できない。この実験のキャッチアンドリリースは5ヶ月間で、休止期間は7ヶ月。この休止期間にスレが解消あるいは低下すれば、短期的スレの影響は検出できない。

スレ問題を解決するには、「何を学習しているか」を明らかにすることが必須

 以上の実験データから、バス釣りにおいてスレ問題を解決するためにどうすればいいか考えてみよう。次々と新しいバス稚魚と餌魚を補給しても、必ずしも釣獲率が向上しない。釣り針の学習効果があるからだ。休漁期間の設定は、好きな時に自由に釣りたいアングラーには受入れ難い。折衷案として、釣り場ごとに休漁期間を変えることが提案されている。これだといつでもどこかで釣ることができる。しかし、これでも決定的解決にはならない。それに、休漁期間をいつにするかが問題である。生物学的研究(水槽実験)では、バスの食欲は水温22°C − 26°Cでピークになる。この水温の期間は休漁期間に設定しない方がよさそうであるが、以前の私の投稿記事に書いたように、バスのヒットと食欲は無関係なのである。Wegner et al. (2018) は多くのアングラーの体験を引用して、バスの釣られ易さは水温では説明できないと結論している。


 バスのスレが解消する期間を知りたいところであるが 、釣獲率の回復に6ヶ月必要であったという調査報告もある。ブラウントラウトや鯉は釣り場を避けて分布するようになることが知られていて、バスではルアー回避ではなくボートの存在や音も含めたアングラー回避ではないかとWegner et al. (2018)が書いているが、私はやはり釣り針の磁気を学習したスレであると考えている。アングラーの要求を満たすバス遊漁の科学的管理は不可能ではないだろうが、スレの原因が不明な現状では容易でなく、バスに関する科学的情報不足を痛感する。

 したがって、非鉄性(非磁性)の釣り針の開発こそ、バスのスレ問題解決のカギだ。こうした針が、外国ではなく日本で開発されることを心から願っている。

参考文献

Cline, T.J., Weidel, B.C., Kitchell, J.F. and Hodgson, J.R. (2012). Growth response of largemouth bass (Micropterus salmoides) to catch-and-release angling: a 27-year markre- capture study. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Science 69, 224–230.

Philipp, D.P., Claussen, J.E., Koppelman, J.B., Sten, J.A., Cooke, S.J., Suski, C.D., Wahl, D.H., Sutter, D.A.H. and Arlinghaus, R. (2015). Fisheries-induced evolution in largemouth bass: linking vulnerability to angling, parental care, and fitness. American Fisheries Society Symposium 82, 223–234.

Sass, G.G., Gaeta, J.W., Allen, M.S., Cory D. Suski, C.D. and Stephanie L. Shaw, S.L. (2018). Effects of catch-and-release angling on a largemouth bass (Micropterus salmoides) population in a north temperate lake, 2001–2005. Fisheries Research 204, 95–102.

坪井潤一、森田健太郎、佐藤玄記(2015). 野生化したニジマスと天然ヤマメの釣られやすさの比較. 日本水産学会誌 81(5), 846–848.

Wegener,  M.G., Schramm, H.L. Neal, J.W. and Gerard, P.D. (2018). Effect of fishing effort on catch rate and catchability of largemouth bass in small impoundments. Fisheries Management and Ecology 25(1), 66–76.

米山兼二郎、松岡達郎、川村軍蔵(1994). ティラピアの野生魚と養殖魚の釣られ易さの個体差. 日本水産学会誌 60(5), 599–603.

米山兼二郎、松岡達郎、川村軍蔵(1996). ニジマスの釣られ易さの個体差と釣り針回避学習に及ぼす無給餌期間の影響. 日本水産学会誌62(2), 236–242.

米山兼二郎、増田育司、川村軍蔵(1994). ティラピア2種Oreochromis mossambicus, O. niloticus とその雑種から成る混群内での釣られ易さの個体差. 日本水産学会誌63(2), 166–170.

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