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キャッチアンドリリースがバスに与える影響について、わかっていること

 遊漁におけるキャッチアンドリリースは最初イギリスに始まり、次いでアメリカに普及し、今では世界中に普及している。最初の考え方は、リリースすることによって資源の減少や枯渇を防ごうというものであったが、現在では国によって扱いが異なっている。

 例えば、スイスとドイツではリリースが禁止されており、釣った魚を食うためだけに釣りが許されている。魚とのファイトだけを楽しむ遊漁は残酷だということが理由らしい。この根底には、魚には痛覚があり、痛みと苦痛を与える行為は非人道的であるという動物福祉の考えがある。また、キャッチアンドリリースが魚に与える影響は魚種によって異なり、ブラックバス漁業管理者には重要な関心事である。ニューヨークとバーモントの州境にあるChamplain湖では2017年だけで60以上のブラックバストーナメントが開催された(Maynard and Mihuc, 2017)。このようなトーナメントは随所で行われるので、釣られるバスの総数は膨大である。

ラージマウスバス(以下バスと記す)に対するキャッチアンドリリースの影響については、以下の5つの観点から研究が行われてきた。

  1. リリース後の生存率
  2. 生理的変化(ストレス)
  3. 成長速度
  4. 繁殖
  5. 縄張りへの回帰能力

 

それぞれについて、研究の成果を紹介しょう。なお、ここでブラックバスと記したときは、ラージマウスバスとスモールマウスバスを含む。

(1)リリース後の生存率

  ブラックバストーナメントの記録には、トーナメント中に釣られた数、死亡数が残っている。これらの資料を使って、ブラックバス資源に与えるキャッチアンドリリースの影響を長年調べてきたテキサス大学の野生動物漁業管理研究所によると、トーナメントの検量時に確認された死亡率(初期死亡率)は1970年代では平均15.2%、1980年代5.7%、1990年代1.9%で、1982年以降は概ね5%以下であるという。ただし、1972 年には50%以上の事例もあった(Wilde et al., 2003)。

 死亡率の低下はアングラーの魚の取扱い方法の向上、釣り針の変化(J型からG型へ)などが貢献している。ただし、問題は残っている。リリース後の影響を調べるために生簀内などの観察を行うが、通常5日程度の観察である。数週間に亘る影響は皆目分かっていないとMaynard and Mihuc (2017) が指摘している

(2)生理的変化(ストレス)

 ブラックバストーナメントでは、検量所でアングラーが自分の魚を一時タンクに活かしておく。その時、魚を静かにさせるためにタンクに氷を入れて水温を下げる。これが問題なのである。バス釣りでは、ファイト後の魚はかなりのストレスを受けて、血中のコルチゾール濃度が上がっている。コルチゾールはストレスホルモンとして人体にも影響を与えるホルモンである。そのストレスからのバスの回復過程を調べたSuski et al. (2005) によると、25°Cでファイトさせた後に14°C, 20°C, 32°Cの水槽に入れておいたバスは、25°Cの水槽のバスよりストレスからの回復がかなり遅かった。つまり、釣ったバスを収容するタンクの水の温度は釣り場と同じ温度であるべき、ということになる。

 また、コルチゾールに着目してトーナメント参加者と非参加者のリリース直前のバスのストレスを調べた例では、前者のバスの血中コルチゾール濃度が後者のバスより数十倍高かった(Suski et a., 2003) 。トーナメントと非トーナメントでは釣った後の魚の扱いが全く異なる。 ストレスを与えないバスの扱い方をトーナメント開催者は工夫すべきであると著者らは警告している。

(3)成長

 ストレスの影響はみられているが、少なくともトーナメント以外では、長期的な成長への影響はさほど観測されていないようだ。カナダの湖で釣れたバス(1050尾)に標識を付けてキャッチアンドリリースを続けたCline at al. (2012) によると、リリース直後の6日間は体重の減少が認められたが、減少分は直に回復するので、キャッチアンドリリースの体重への影響は些少であると報告した。この結果は過去のテキサス州の湖での実験結果 (Pope and Wild, 2004) と一致する。 

(4)繁殖行動

 キャッチアンドリリースがバスの繁殖に与える影響は大きいと言えそうだ。ご存知の通り、繁殖期の雄バスは雌が去った後も巣に残り、卵仔魚を捕食魚から保護する。そのため、巣に近づいたルアーを攻撃して容易に針にかかるので釣り易い。北米では、この雄バスを保護するために繁殖期を禁漁にしているところもある。例えばカナダのオンタリオ州がそうだ。しかし、当地の湖で実験していたPhilipp et al. (1997) が違法なバスアングラーが後を絶たないので 、警鐘のために研究途中の実験データを公表した。彼らによると、リリースされた雄バスは、巣を放棄するか巣の保護に消極的になったのである。その影響として卵仔魚は多大な捕食に晒される。その後、同様な研究結果がCooke et al. (2002)、Suski et al. (2003)、Suski (2004) によって報告された。それらの研究結果に基づき、幾つかの地域でさらに繁殖期のバス釣りが禁止された。

 しかし、フロリダラージマウスバス(フロリダバス、ラージマウスバスの亜種)の研究結果は異なる。フロリダ魚類野生動物保全研究所のN.A. Trippelやフロリダ大学の人たちが2017年に共同で発表した論文では、産卵床でのキャッチアンドリリース(bed fishingという)によって多くの巣が放棄されたが、稚魚の生産数には影響がなかった、というものである。フロリダで行われたこの実験は規模が大きく、4つの池は繁殖期のキャッチアンドリリースは行わない対照池、5つの池をキャッチアンドリリースを行った実験池とした。2年間で18の池が使われたことになる。フロリバスの餌魚はブルーギル(全長9-50 mm、一部は15 mm以上)とモスキートフィシュ(カダヤシ)で、池には動物プランルトンが豊富であった。シュノーケリング観察を続けて、9ヶ月後に全ての池を排水して稚魚の数を数えた。その結果、稚魚の数は対照区と試験区で差がなかった。

 私が意外に思ったのは、フロリダバスの場合キャッチアンドリリースをしない対照区でも約50%の巣が放棄されたことである(リリースをした実験区では約60%)。調べてみると、北米の多くのバスは卵仔魚を5-6週間保護するが、フロリダバスは2週間。もともと、フロリダバスは卵仔魚の保護に熱心ではないようである。この研究はフロリダのバスアングラーに歓迎された。フロリダバスの繁殖期は5ヶ月と長く、繁殖期を禁漁期にされたのではバス釣りを楽しめないからだ。

 しかし、私はこの論文に不満足である。シュノーケリング観察をしていながら、ブルーギルによる捕食の記載がない。問題はブルーギルなどによる卵仔魚の捕食なのである。

 大浜ら(2012) が本栖湖で行ったバスの産卵床の潜水観察は興味深い。産卵床(104床)に雄バスがいてもウグイ、ムヌマチチブ、コイがバスの卵を捕食するのを何度も観察している。これらの雄バスはキャッチアンドリリースによって卵保護能力を低下させてしまったのだろうか。

(5)縄張りへの回帰能力

 バス成魚は通常、縄張りをつくって単独で生活するが、その縄張りは固定的なものではなく季節的に移動したり、日ごとに変化することもある(Johnke, 1995)。魚の行動を調べるにはバスに装着した超音波標識を受信器で追跡する方法がとられる。Thompson et al. (2008) がカナダのオンタリオ州の湖で行った実験では、釣獲後にバスを空中に異なった時間(5分あるいは 30分)晒した後にリリースして追跡した。釣獲地から1km離れが地点で放流された魚は放流点にしばらく滞在することが分かったが(1–73時間、変動が大きい)、空中暴露時間の影響は認められなかった。

 キャッチアンドリリースされたバスは、釣獲位置で直ちにリリースされると縄張りに戻れるが、離れた場所でリリースされると直ぐには縄張りに戻れない。ブラックバストーナメントでは、釣った魚が検量所に集められ、検量の後は検量所でリリースされる。Wild (2003) の調査によると、リリース後に釣獲地点に戻れたバスは14%だけで、他の半数は3.5 kmの範囲に分散した。リリース位置を釣獲位置から種々変えた実験では、距離が遠くなると釣獲地点に戻れないバスが増えるので(Brown et al., 2015)、トーナメントではこれを配慮したリリースが必要である。

 余談になるが、バスが巣の位置を知る感覚器は嗅覚であるらしい (Dufour et al., 2015) 。実験方法は 、巣にいる雄バスを釣獲し、感覚を閉塞するために眼をカバーした魚、鼻孔を封じた魚、頭部に磁石を装着して磁気感覚を無効にした魚のグループを様々な距離からリリースし、シュノーケリングで目視追跡した。その結果、鼻孔閉塞魚の巣への回帰が最も少なかった(影響が大きかった)。雄バスを移動させた間は捕食を防ぐために巣に覆いをした。この実験は追試されるべきである。なぜなら、感覚閉塞の処置をしなかったにもかかわらず、巣に戻れなかったバスが数尾いたことである。バスがキャッチアンドリリースの影響で巣を放棄した可能性を否定できず、実験結果に感覚閉塞とは異なる要因が混じっている。また、鼻孔を封じるために ワセリンを浸した脱脂綿を鼻孔に入れたが、ワセリンはバターのような物で、熱して溶かさねばならない(溶解温度70−80°C)。この熱が鼻孔の近くにある磁気感覚器を破壊した可能性がある(ウナギの磁気感覚器は50°Cで破壊する (Nishi et al., 2005))。回帰には磁気感覚が重要で、地磁気を手掛かりにした回帰だと私は考えている。

以上、5つのポイントからキャッチアンドリリースについて考えてきた。そもそも多くの場所で日本ではリリースが禁止されているが、単にリリースをすれば魚に優しい釣りになるわけではないということは覚えておいて良いだろう。

参考文献

Brown, D.T. and Rice, J.A. (2015). Dispersal patterns of coastal largemouth bass in response to tournament displacement. North American Journal of Fisheries Management 35, 431−439.

Cooke, S.J., Schreer, J.F., Wahl, D.H. and Philipp, D.P. (2002). Physiological impacts of catch-and-release angling practices on largemouth bas and smallmouth bass. American Fisheries Science Symposium 31, 489−512.

Cline, T.J., Weidel, B.C., Kitchell, J.F. and Hodgson, J.R. (2012). Growth response of largemouth bass (Micropterus salmoides) to catch-and-releae angling: a27-year mark-reature study. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 69, 224−230.

Dufour, K., Gutowsky, L.F.G., Algera, D., Zolderdo, A., Magel, J.M.T., Pleizier, N., Dick, M. and Cook, S.J. (2015). An experimental test of in-season homing machnisms used by nest-garding male largemouth bass following displacement. Behavioural Processes 120, 87−93.

Johnke, W.K. (1995). The Behavior and Habits of Largemouth bass. Dorbil Publishing Co., Uniondale, NY.

Maynard, G.A., Mihuc, T.B., Sotola, V.A., Graneau, D.E. and Malchoff, M.H. (2017). Black bass dispersal patterns following catch‐and‐release tournaments on Lake Champlain. North American Journal of Fisheries Management 37, 524−535.

Nishi, T., Kawamura, G. and Sannomiya, S. (2005). Anosmic Japanese eel Anguila japonica can no longer detect magnetic fields. Fisheries Science 71, 101−106.

大浜秀規、岡崎 巧、青柳敏裕、加地弘一 (2012). 本栖湖に蜜放流されたコクチバス Micropterus dolomieu の根絶. 日本水産学会誌 78, 711−718.

Philipp, D.P., Toline, C.A., Kubacki, M.F., Philipp, D.B.F. and Phelan, F.J.S. (1997). Impact of catch-and-release angling on the reproductive success of smallmouth bass and largemouth bass. North American Journal of Fisheries Management 17, 557−567.

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Suski, S.D., Svec, J.H., Ludden. J.B., Phelan, F.J.S. and Philipp, D.P. (2003). The effect of catch-and-release angling on the parental care behavior of male smallmouth bass. Transaction of the American Fisheries Society 132, 210−218.

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Trippel, N.A., Hargrove, J.s., Leone, E.H., Austin, J.D. and Allen, M.S. (2017). Angling-induced impacts on recruitment and contributions to reproduction in Florida bass. Transactions of the American Fisheries Society 146, 871−887.

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