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水温がラージマウスバスに与える5つの影響

釣り人の中には、温度計を釣り場に持ち込んで、水温測定をしてからキャストを始めるという入念な方もおられると聞く。しかし、実際のところ、水温はラージマウスバス(以下バス)の行動にどれほどの影響があるのだろうか?

 魚の温差感覚の閾値は魚種によって異なるが概ね0.03−0.25°C であるので(Bardach and Bjorklung, 1957; Steffel et al. 1976)、魚の温度差感覚は非常に鋭いといわれる。この閾値はヒトの閾値0.03−0.09°C(Jones, 2009)とほぼ同じである。しかし魚は変温動物であるので水温変化の影響は大きく、ブラックバスは微妙な水温変化に感応すると思われる。

生物学の立場からみて、温度に影響されそうなものといえば

(1)摂食行動

(2)運動能力(魚の場合には遊泳能力)

(3)行動範囲

が挙げられ、釣り人としての経験からは

(4)釣獲率

(5)キャッチアンドリリース後の生存率(参考:キャッチアンドリリースの影響

が挙げられる。

これらについて、過去行われてきた研究を見渡してみよう。

温排水は具体的にはどんな影響があるのか?

 水温がバスに及ぼす影響についての調査研究は2つの目的で行われてきた。一つは原子力発電所からの温排水が湖のバスを含む生態系に及ぼす影響を知ることである。他は、ブラックバストーナメントでキャッチアンドリリースされるバスの死亡に及ぼす水温の影響を知ることである。

 前者の最初の調査を行ったのが、米国のOak Ridge国立研究所だ。 調査地はテキサス州のAlcoa湖で、周辺の5つの湖(温排水はない)と比較調査を行った。その結果を調査団リーダーのC.C. Coutantが1975年にシンポジウム発表し、出版された。報告書にはラージマウスバスやスモールマウスバス等の産卵、卵発生、摂食と消化過程、成長、新陳代謝、遊泳への水温の影響が書かれているが、ここではラージマウスバス(以下バスと記す)の行動と釣りに関する部分を紹介したい。また、随所で関連する資料の情報も紹介した。では、それぞれの観点について詳しくみていこう。

(1)摂食行動

 過去の水槽実験を引用して、バスは水温5°C以下では摂餌を停止し、摂食率は10−20°Cで急増し、27°Cでピークであると結論している。Coutant が図示したピーク摂食率は1尾のバスが摂取するミノー(ウグイ)の平均数は一週間に4.1尾と少なく、水槽実験に問題があるのではないかと私は考えている。

というのも、Heidinger (1976) によると、バス成魚の一日の摂食量は、オタマジャクシのみを食った場合自重の8%、魚を食った場合は自重の4%であるからだ。体重1kgのバスでも1週間に換算すると300g近い餌を必要とする計算になり、4.1尾のウグイでは到底足りない。

餌となるminnow(ウグイ類)

 Coutantの湖での観察によると、27°C以上の高温になると、バスは日影にいて静止状態で、胃は空であったという。なお、低水温ではバスは小型の餌を摂食する傾向にある(Wright, 1970)。

(2)遊泳能力

 水温が5−35°Cの範囲で調べたバスの遊泳速度は27°Cで最大で、この水温では新陳代謝と酸素消費量も最大であった。一方、水温10−34°Cの範囲で Beamish (1970) が測定したバスの遊泳速度は30°Cにピークがあり、彼はこの水温範囲では明瞭な水温の影響は見られないと結論した。彼らの実験は水温と遊泳速度および酸素消費量の関係を調べることが目的で、 酸素消費量を測定できる小さな装置では魚は本当の遊泳能力を発揮しない。事実、彼らが測定した遊泳速度(最大が全長の2倍/s程度、2TL/s)は遅すぎて、参考にならない。

 バスアングラーが気になるのは、バスのファイトのパワーだろう。パワーと関係するのは白筋で泳ぐ最大速度(1秒に全長の4倍=4TL/s以上)である。たとえば、Kolok (1992) が測定したバス稚魚の遊泳速度は22°Cで3.84 TL/s、11°Cで3.01TL/sであった。これは直径7.7 cm、長さ55 cmの流水チェンバーの中で泳いだ値なので、最大能力とはいえないが、遊泳速度が水温に影響されるのは明らかである。

 湖でバスの遊泳活動と水温を調べた例はHanson et al.(2007) が唯一であろう。彼らはワーナー湖(クイーンズ大学の試験研究用の人工湖、最大水深7m)で水温センサー内蔵の発信器を装着したバスを湖にリリースした。 その結果を示したのが図1である。

図1ラージマウスバスの水温と遊泳水深および遊泳活動の関係。水温が最も低い季節にはラージマウスバスは湖(最深部7 m)の底にいることが分かる(Coutant, 1975より)。

図1ラージマウスバスの水温と遊泳水深および遊泳活動の関係。水温が最も低い季節にはラージマウスバスは湖(最深部7 m)の底にいることが分かる(Coutant, 1975より)。

実験期間は冬期の11月から翌年の4月で、水温変化は小さいが、低温では遊泳活性が低いことが明瞭である。ところが、最大速度は1.56−1.86 m/sで、Korok (1992) が回流水槽(水温5°C)で測定したバス稚魚(平均尾叉長10.1 cm)の最大遊泳速度2.27 cm/s より小さい。この論文では発信器に問題があった、つまり、発信器 は15秒に1回発信するもので(バッテリーの寿命を長くするため)、短時間の速い遊泳を記録できなかったと記している。

(3)行動範囲ーバスは適水温を選択する

 日照によって湖面水温は上昇するが、バスの遊泳層での水温は日照の影響は少ないので、湖面の水温だけを測ったのでは、バスの好む水温を知る事はできない。Coutant (1975) は、水温センサーを内蔵した超音波標識をバスに装着して追跡し、図2の結果を得た。図では湖面水温が上昇するがバスはおよそ27°Cの層で遊泳することが読み取れる。

図2 バス成魚の水温選択性(Coutant, 1975より)。

図2 バス成魚の水温選択性(Coutant, 1975より)。湖面水温が上下してもバスはおよそ27℃のところにとどまっていることがわかる

 スモールマウスバスも適水温を選択する。オンタリオ湖で発信器を装着したスモールマウスバスは夏期の25°C以上の水域を避けて、専ら20−22°Cの水域に分布した (Gerber, 1987) 。同様な水温嗜好傾向がオンタリオの他の3つの湖でも報告されている。しかし、この水温は Reynolds and Casterlin (1978) やCherry et al. (1975) が室内水槽実験で得た適水温 26−31°Cよりかなり低いのが問題として残る。これについては後述する。

 バスの遊泳水深の選択に水温の他に溶存酸素濃度(DO)も見逃せない。夏期の湖沼は表面水温が高く、低層水温が低い状態が続く。水温が鉛直的に急に変化する層を水温躍層という。これはDO躍層でもあり、酸素はこの層の上では多く、下では少ない。

 米国ミネソタ州 Ridge 湖(最大水深 6.5 m)で行われたイリノイ大学の調査は大規模で、水温とDOを水深1m 毎に測定できる観測ブイを湖内に3基設置し、発信器を装着した12尾のバスの動きを8基の受信器で追跡した。その結果が French (2016) に纏められている。それによると、夏期の躍層(水深 2.5 m)形成時に、湖の水温分布は底層の 14.1°C から表層の 33.1°C であったが、バスは 25–27°C の樹木の影のある所を特に選択し、28°C以上の表層水を避けた。湖水のDOは低層の 0.2 mg/L から表層の 10.8 mg/L までであったが、バスは 6−8 mg/L の層を選んだ。しかし、バスは頻繁に 2.0 mg/L 以下の低層水でみられた。摂食のために低DO層に入ったのだろうと考えられ、低いDOは必ずしも強い環境障壁にならないと結論している。なお、躍層が消えて表層と下層の湖水が混合する時期にはバスは湖全体に分散分布した。

(4)釣獲率

 Coutant (1975) によると、バスが温排水影響域(平均水温23.8°C)に集まり、他の水域や温排水がない湖に比べてキャスティングの成功率(つまり、キャストした結果魚がかかった率)は極めて高かった。しかし、水温が27°C以上では釣獲率が下がった。この釣獲率低下水温は他の報告書やバスアングラーの経験とも一致する。この原因として、高温におけるバスの摂食欲の低下と、バスが 高温域を避けて釣り場となる沿岸域から移動する事が考えられた。

(5)キャッチアンドリリース魚への影響

 これについては沢山の調査報告書があり、全てブラックバストーナメント時の調査である。水温の影響があった(高水温ほど死亡率が高かった)という一方で影響は見られなかったというものもある。Weathers and Newman (1997) が アラバマのEufaula湖での14のトーナメントの調査では水温が27.2–32.8°Cで、死亡率は非常に高かった(釣獲時の死亡率2.4–18.4%、4日間生簀に収容した後の死亡率1.3–50%)。高い死亡率は釣獲時とその後のバスの扱い方によるもので、水温の影響を検出しにくかった。
 
 Neal and Lopez-Clayton (2001) が調査したプエルトリコの15のトーナメントでは、水温が23–28°Cで釣獲時の死亡率0–38%、4日間生簀に収容した後の死亡率0–50% 。高い死亡率は夜間のトーナメントの魚の扱い時間が昼間の8倍であったことが原因で、それを考慮すると低水温時(1−2月)の死亡率は他の月より明らかに低かった。彼らは夜間のトーナメントを止めることを提案している。

 針がかりの体部位が違うバスがリリースされた後の生存率に及ぼす水温の影響を調べた例がある。Wilde and Pope (2008) が ブラックバストーナメントのキャッチアンドリリースを実験室で再現したもので、電戟装置で捕獲したバスの鰓あるいは咽頭にカエシ付き針をかけた後に水槽でバスがおとなしくなるまで竿で引き回し(31−107秒間)、針を外して異なる水温(7, 14, 17, 24, 27, 34°C)の水槽に収容して6日間観察した。その結果、鰓がかりは59尾中 1尾、咽頭がかりは50尾中 17尾が死亡し、咽頭がかりの影響は大きいことが分かったが、水温の影響が全く見られなかった(図3)。

図3 鰓がかりと咽頭がかりしたバスの生残率と水温の関係 水温34°Cではバスが回復しないまま死亡したので、図に含めていない(Wilde and Pope, 2008より)。

図3 鰓がかりと咽頭がかりしたバスの生残率と水温の関係 水温34°Cではバスが回復しないまま死亡したので、図に含めていない(Wilde and Pope, 2008より)。

追記:ストレスとバスの活性測定の難しさ

 動物の生理に及ぼす温度変化の影響を数値で表したものをQ10 (Q-ten) 係数という。例えばQ10 が2であれば、温度が10°C上がれば(下がれば)動物の生理活性が2倍(1/2)になるということを示す。Q10係数が1.0であれば水温変化の影響を全く受けない動物である。Q10係数が大きい動物は温度変化の影響を強く受ける 。

変温動物のQ10係数は通常 ≥ 2 であるが、心臓活性を指標に計算した バスのQ10係数は1.11−1.53で小さく(Cooke et al., 2003)、水温変化の影響を比較的受けにくい動物であることが分かる。ちなみにニジマスのQ10係数は、心拍を指標にした場合は 2.07、呼吸数を指標にした場合は 4.02 である (Hughes and Roberts, 1970) 。キャッチアンドリリースではバスを空中に晒した時間がその後のバスの生理や生き残りに強い影響を与えることが知られている。アングラーによるバスの扱いに差がある場合、水温の影響を検出するのは容易ではない。
 
 バスが微妙な水温変化に感応するならば、水温をどのように測定するかが問題になる。太陽からの可視光の95% が水面下に入り、水を暖める。しかし、湖畔や川畔の樹木が水面に影をつくるとその部分の水温は下がる。湖畔や川畔の木を伐採すると水温が上昇して生態系に悪影響を及ぼすので、日中の影と水温の関係は良く調べられている。

 ニュージーランドの流れが緩やかな川で調べた例では、影の内と外では平均 3−4°C の差があった (Rutherford et al., 1997) 。発信器を装着したバス12尾を湖で追跡調査した例では、 バスは水草が繁茂した場所や沈木のある場所(影のある場所)を好み、岸が露出した影のない場所を避けた (Thonpson et al., 2005) 。こ

れは水温の影響と影の直接的影響の可能性が考えられる。後者の場合は、影の内に入ると影の外(特に影の近く)の餌動物が見え易くなることが影響する。

 上述の(3)で、発信器を装着したブラックバスの野外データと水槽実験のデータが合わないという問題があった。水槽実験では、水槽に閉じ込められたバスのストレスの問題がある。一方、フィールドでは、自由遊泳の水深を決める要素は水温だけでなく溶存酸素量や餌動物の分布などがあり、水温だけではない。それが実験室データとの乖離を生じさせていると考えられている。バスに影響する水温の影響はまだ未知の世界で、これを解明できるのはバスアングラーである。スマートルアーの早い普及が待たれる。

参考文献

Bardach, J. E. and Bjorklung, R.G. (1957). The temperature sensitivity of some American freshwater fishes. American Naturits 91, 233−251.

Cherry, D.S., Dickson, K.L. and Cairns, J. Jr. (1975). Temperatures selected and avoided by fish at various acclimation temperatures. Journal of Fisheries Research Board of Canada 32, 485−491.

Cooke, S.T., Ostrand, K.G., Bunt, C.M., Wahl, D.H. and Philipp, D.P. (2003). Cardiovascular response of largemouth bass to exhaustive exercise and brief air exposure over a range of water temperatures. Transactions of the American Fisheries Society 132, 1154−1165.

Coutant, C.C. (1975). Response of bass to natural and artificial temperature regimes. In: H. Clepper (ed.), Black Bass Biology and Management. Sport Fishing Institute, Washington DC. pp. 272−285.

French, C.G. (2016). Behavior and habitat selection of largemouth bass in response to dynamic environmental variables with focus on dissolved oxygen. Master thesis, University of Illinois at Urbana-Champaign.

Heidinger, R.C. (1976). Synopsis of biological data on the largemouth bass Micropterus salmoides (Lacepède) 1802. FAO Fisheries Synopsis No. 115.

Hughes, G.H. and Roberts, J.L. (1970). A study of the effect of temperature changes on the respiratory pumps of the rainbow trout. Journal of Experimental Biology 52, 177−192.

Gerber, G.P. (1986). Movements and behavior of smallmouth bass, Microperus dolomieui, and rock bass, Ambloplites rupestris, in southcentral Lake Ontario and two tributaries. Mater thesis, New York College, Brockport.

Reynolds, W.W. and Casterlin, M.E. (1978). Complementarity of thermoregulatory rhythms in Micropterus salmoides and M. do1omieui. Hydrobiologia 60, 89−91.

Rutherford, J.C., Blackett, C., Saito, L., Davies-Colley, R.J. (1997). Predicting the effects of shade on water temperature in small streams. New Zealand Journal of Marine and Freshwater Research 31, 707−721.

Steffel, S., Dizon, A. E., Magnuson, .J.J. and Neill, W.H. (1976). Temperature discrimination by captive free-swimming tuna, Euthynnus affinis. Transactions of the American Fisheries Society 105, 588−591.

Thompson, T.M. Jr., Cichra, C.E., Lindberg, W.J., Hale, H.A. and Hill, J.E. (2005). Movement and habitt selection of largemouth bass in a Florida steep=sided Quarry Lake. Proceedings of Annual Conference of Southeast Association, Fish and Wild Agencies 59, 227−240.

Weathers, K.C. and Newman, M.I. (1997). Effects of organizational procedures on mortality of largemouth bass during summer tournaments. North American Journal of Fisheries Management 17(1), 131−135.

Wilde, G.R. and Pope, K.L. (2008). A simple model for predicting survival of angler-caught and released largemouth bass. Transactions of the American Fisheries Society 137, 834−840.

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