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大型の魚ほど、マズメ時のより暗い時間帯に活動する

大型の魚ほど、マズメ時のより暗い時間帯に活動する
夏のある日、近場の波止まで、アジを狙ってサビキ釣りに出かけた。
朝マズメを攻めるべく、日の出の1時間ほど前から竿を出したところ、15センチ前後の良いサイズの魚が立て続けにヒット。しかし日の出を過ぎた途端、目に見えて魚のサイズが小さくなり、10センチほどの“豆アジ”ばかりが釣れるようになった。

一口に「朝マズメ」といっても、日の出の前と後ではだいぶ明るさも違ってくる。ということは、魚たちの行動はもちろん、そこにいる魚の種類でさえ、時々刻々と変化しているのではないか?

マズメ時の魚の行動を、魚種別に観察

前回の記事では、朝夕のマズメ時、特に日の出・日の入りの前後の時間帯に、魚たちの行動がどう移り変わるかを詳細に調べた事例を紹介した。

マズメ時の魚の行動変化 ―日の出、日の入り前後の数十分間を徹底解剖

ニューヨーク郊外のCazenovia湖でおこなわれたこの綿密な潜水観察調査では、昼夜あわせて14種もの魚について、調査地点に現れたそれぞれの個体が、いつどのような行動をみせたかを逐一、記録していた。

前回はこれら14魚種を、昼行性と夜行性の二つに大別して集計し、異なる魚種間でも共通する、マズメ時の大まかな行動パターンを紹介した。
今回は、同じ観察データを魚種ごとに詳しく分析し、マズメ時の水中の様子を、より高解像度で見直してみよう。

同じ魚種でもサイズによって行動タイミングは異なる

潜水観察の記録をみると、同じ魚種の中にも、年齢(体サイズ)の違う個体が入り混じって観察されていた。
そして、いくつかの魚種では、その年うまれの当歳魚(「0歳魚」)と、1年以上前に生まれた魚(「1歳魚+」)で、マズメ時にみせる各行動のタイミングが異なっていたのである。

例として、観察した個体数が多く、行動の移り変わりがはっきりしていたイエローパーチ Perca flavescens の行動パターンをみてみよう【図1】。

大型の魚ほど、日の出前・日の入り後のより暗い時間帯に活動していた

青い四角で示した「1歳魚+」、つまり大型の個体と、オレンジの丸で示した小型の「0歳魚」では、各行動のタイミングが10分から20分程度ずれていることがわかる。
たとえば、左のグラフのいちばん上に示した「採餌開始」のタイミングをみると、大型の「1歳魚+」は日の出の約20分前からエサをとり始めているのに対し、小型の「0歳魚」はほぼ日の出と同時刻になっている。

同様に、右のグラフのいちばん上の「採餌終了」のタイミングをみても、大型の「1歳魚+」は日没後もしばらくエサをとるが、小型の「0歳魚」は日没より前にエサとりを切り上げている。
つまり、大型の魚ほど、日の出前・日の入り後のより暗い時間帯に活動していたのだ。

 

もうひとつの例として、データ数は少ないが、釣りの対象として人気のあるコクチバス Micropterus dolomieu をみてみよう【図2】。
大型の「1歳魚+」の方が、朝はより早く活動し始め、夕方はより遅くまで活動していることがわかる。

観察した数が少なく、採餌行動のタイミングまでは特定できていないが、先ほどみたイエローパーチと同様、大型の「1歳魚+」の方が、朝はより早く活動し始め、夕方はより遅くまで活動していることがわかる。

このようなタイミングの違いは、おもに小型魚(今回は「0歳魚」)が外敵に襲われないための、捕食回避に理由があると考えられている。
多くの敵に狙われやすい、生まれて日の浅い小さな魚は、遠くから敵を見つけやすい明るい時間帯にのみ活動し、敵に近づかれる危険性の高まる暗い時間帯をできるだけ、安全な隠れ家で過ごすことが知られている。
そして、ある程度のサイズ(年齢)まで育って敵に襲われる危険が減ってくると、より暗い時間帯でも泳ぎ回ってエサをとるようになる、というわけだ。

成長すると夜行性に変わる魚たち

ここまでみられたような、成長にともなって活動時間帯が移り変わる現象が、さらに極端な形であらわれる魚種もいる。
小さいうちは群れで泳ぎ、成長すると単独でエサを探すようになる魚の一部では、成長に伴って、昼行性から夜行性へとシフトする例があるのだ。

Cazenovia湖で観察された中では、コイ科のゴールデンシャイナー Notemigonus crysoleucas と、オオクチバス Micropterus salmoides の2種がこれに相当する【図3】。

どちらの魚種も、小型の「0歳魚」は昼に群れて活動し、日没後30–40分ほどで活動を終えて休息に移るが、大型の「1歳魚+」は昼間、じっと休息しており、日没後に単独あるいは少数個体のグループで泳ぎだす様子が観察されている。
今回のデータでは、夜行性の「1歳魚+」の採餌行動は記録されていなかったが、当然、「活動開始」よりもあとの時間帯に採餌しているはずだ。

マズメ時の釣りという観点からみれば、大型の魚を狙うにはやはり、夕マズメなら日没後、朝マズメなら日の出前の、より暗い時間帯を攻めるのがよさそうだ。

後日談。堤防での小アジ釣りに味をしめて、もう少し大きなアジの釣り方を調べてみたところ、「朝マズメ前か夕マズメ後の、完全に暗い時間帯が狙い目」と書かれているのを見つけた。
釣りに慣れてきて、つい「マズメが始まれば釣れる」「マズメが終わると釣れない」と紋切り型に考えてしまいがちだったが、たとえば日の出・日の入り前後の明るさの変化や、魚たちの活動だって、なだらかで連続的に、しかし着実に移り変わっていくものだ。

マズメ時はたしかに、魚の活動性の大きく変化する時間帯で、釣りの重要な要素ではある。いっぽうで、「マズメ」という言葉に縛られ過ぎないこともまた、釣り人にとって大事なことなのかもしれない。

──吉田 誠[国立環境研究所琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Helfman G. S. (1981) Twilight activities and temporal structure in a freshwater fish community. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Science 38: 1405–1420.

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