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魚は夜目が利くのか―マズメ時や夜間に見えやすい色とは

釣具店に足を運ぶと、仕掛けを目立たせ、魚にアピールするために、さまざまな工夫を凝らした製品を目にする。特に、キラキラ光る反射材や、暗闇で光る蓄光ビーズあたりが代表的だろう。

水中では、水深が深くなるにつれて水面からの光が吸収され、私たちの想像以上に暗い世界になっている。そして、魚たちはおそらく、そんな中でも十分に物を見ることができる目を持っているはずだ。

では、特に薄暗いマズメ時や夜の間は、魚にとってどのような色のものが見えやすいのだろうか。

沿岸にくらす魚の行動・食性・視力を徹底調査

Hobsonら(1981)は、米国カリフォルニア南部の沖に浮かぶSanta Catalina島の沿岸で3年間におよぶ潜水観察調査をおこない、そこにすむ主要な27魚種について、昼夜の活動性や食性などを詳細に記録した。
また、潜水調査と並行して、1日の中でも複数の時間帯に魚を採集して解剖し、その胃内容物から、潜水では観察しづらい夜間の食性についての情報を、眼の網膜の細胞からは、魚種ごとにどの色の光が最も見えやすいかの情報を調べあげた。

昼・夜どちらに活動する魚も、マズメ時の光の色が最も見えやすい

Santa Catalina島沿岸にくらす27魚種のうち、17種は主に昼間、8種は主に夜間、残りの2種は昼夜どちらも採餌していた。
ところが、それぞれの魚の最もよく見える光の色は、魚種によらず、波長496–505nmの「青緑色」で共通していた。

水中では、水面から差し込む太陽光の角度と色が時々刻々と変化するため、周囲を照らす光の色も時間とともに変化する。そこで潜水観察中に、水中での光の色を丸一日測ってみたところ、魚たちが最も周囲を見やすい色となるのは、ちょうど日没(日の出)付近の時間帯だった【図1】。

つまり、マズメ時の水中には、どの魚にとっても最も見えやすい色の光が降り注いでいることになる。

私たちの感覚では、昼間と比べてマズメ時はずいぶん暗く感じられるが、魚にとっては十分、物を見ることのできる時間帯だと言えよう。

夜行性の魚は、月明かりや星明かりを頼りに物を見る?

では、太陽の沈んだあとにエサを探す魚たちは、どのように物を見ているのだろうか。

すぐに思いつくのは、月明かりや星明かりだろう。実際、満月の夜に外を出歩いてみると、私たちの思う以上に周囲が明るく照らされていることに気づく。水中でも、特に砂地の上では、水底を照らす月明かりが砂に反射して、かなり明るいことが知られている。

そこで、水中に届く月明かりや星明かりの色を見てみると、波長550–600nmの「黄緑~黄色」であった。魚にとってよく見える色とは、大きく違っていたのである【図2】。

つまり、魚たちにとって、月明かりに照らされた水中は、私たちの想像するほどには明るく感じられないはずなのだ。では魚たちは夜間、一体なにを頼りに行動しているのだろうか?

「魚は夜間、夜光虫の光を頼りに物を見ている」という仮説

ここでひとつ、ヒントとなる事実がある。

実は、夜間に行われた潜水調査で、ダイバーたちは月明かりのない日でも、ヘッドライトの届かない遠くを泳ぐ魚を見つけ、その種類まである程度見分けることができていた。

これは、ヤコウチュウ(夜光虫)と呼ばれる発光性の動物プランクトンが出す青白い光によって、泳ぐ魚の輪郭が暗闇に浮かび上がっていたためであった。

夜光虫は、水流や水の振動といった刺激に反応して、ルシフェリンと呼ばれる発光物質を放出する。そして、このルシフェリンによって生じる光は、波長500–515nmの「青緑色」、つまり魚のよく見える色とぴったり一致しているのだ【図3】。

実際、観察した27魚種について、夜間の活動場所ごとに、よく見える色を比べてみると、ひらけた水中にいる魚の方が、海藻や岩の陰、砂の中に隠れる魚よりも、夜光虫の出す光の色をよりはっきり見分けられることがわかった。

論文の筆者らはこの結果をもとに、「夜に活動する魚は、おもに夜光虫の光を頼りに物を見ているのではないか」と述べている。

ひらけた水中では、エサも、外敵も、水中を泳いで移動しているため、体の周囲に夜光虫由来の青い光をまとうことになる。この光を見ることで、相手の姿を「見る」ことができるのだろう、というわけだ。

個人的には、なかなか説得力のある仮説だと感じているが、読者の皆さんはいかがだろうか。

今回は、魚にとっての明るさ、見えやすさの研究をとりあげた。これを読んで感じたのは、魚たちと私たちとの感覚には、だいぶズレがありそうだということ。
「日中より暗く思えるマズメ時の水中は、魚たちにとってそこまで暗くない」
「明るいように思える月明かりの夜は、魚たちにとってそこまで明るくない」

仕掛けを選ぶときには、つい私たちの感覚で「派手で、目立ちそう」に思える色を手にとってしまいがちだ。だが、時間帯、釣り場周辺の水の色や、水中にすむ微生物までもが、水中での物の見え方を左右していることが分かってしまった。
それでは、水中ではどの色の仕掛けがよく目立ち、よく釣れるのか――魚の目を持たぬ私たちは、まさに“色々と”試しながら、探っていくしかないのだろう。

――吉田 誠[国立環境研究所 琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Hobson, ES, McFarland WN, Chess JR (1981) Crepuscular and nocturnal activities of Californian nearshore fishes, with consideration of their scotopic visual pigments and the photic environment. Fishery Bulletin 79: 1–30.

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