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“冬に魚の活性が下がる”は本当か—低水温で夜行性に変わる魚


季節の移り変わりとともに、狙いの魚を変える釣り人も多いことだろう。私自身、夏のサビキ釣り仕掛けをしまい込み、次は何を釣りに行こうかと考えを巡らせる日々だ。

そんな四季のめぐりの中で、釣り人にとっていちばん大きな変化は、秋から冬への移り変わりではないだろうか。釣り場や魚種を問わず、「冬は魚の活性が落ちる」、「低水温でエサを食わない」といった話をよく耳にすることから考えると、春から秋に釣れる魚たちが冬になると釣れなくなる、というのはわりと広く知られる通説のようだ。

はたしてこれは本当なのだろうか。

本当だとすれば、魚たちにいったいどんな変化が起きているのだろうか。

水温が下がると魚の活動性はどう変化するか?

ヨーロッパの河川で広く釣りの対象とされているタイセイヨウサケ Salmo salar は、春~秋にかけて釣れる一方、冬になるとほぼ釣れなくなることが知られている。これについて、「冬は低水温でサケの活性が下がり、エサを食べなくなるので釣れない」との説が、釣り人の間では長らく共通の認識となっていた。

英国の魚類研究者Fraserらはこの仮説を検証するため、水槽内でサケを飼育し、水温を変えた時にサケの活動性やエサとり回数がどう変化するかを調べることにした。

実験には、スコットランドを流れるアーモンド川(River Almond)産の野生のサケから生まれた若魚20匹(体長約9センチ)を使用し、水槽の底に隠れ家となる箱を2つ備えた、直径1メートルの円形タンクで長期間の行動観察をおこなった。

自然な環境下では、季節の移ろいとともに、水温だけでなく、日の出日の入りの時刻や日長(昼間の長さ)も徐々に変化していく。今回の実験では、水温以外の影響をなくすために水槽を室内に設置し、人工照明を朝8時–夕方5時の間に照射して昼の長さが常に一定となるようにした。

この条件下で、飼育水温を2℃–18.5℃の間で変化させ、各水温の下で、1日の中での活動性の変化とエサに対する反応を記録したのだ。

水温が下がると日中に姿を見せなくなる

まず、魚の活動性と水温の関係を見てみよう。隠れ家から出て姿を見せていた魚の数を、水温の低いときと高いときで比べてみると、図1のようになった。

低水温のときには、照明のある“日中”に姿を見せる魚の数は非常に少なく、照明のない“夜間”に多くの魚が隠れ家から出てきていた。いっぽう高水温のときには、日中と夜間で極端な違いはなく、低水温時と比べて日中に活動する魚の数が多くなっていた。

また、これらを日ごとに集計し、水温別に昼夜の活動性を比べてみると、水温の低いときほど、日中みられる魚の数は減り、夜間に多くの魚が姿を見せていた様子がはっきりと見てとれる【図2A】。

同じ水温で昼と夜を比べてみると、現地の夏に相当する水温18℃付近では、日中と夜間でみられる魚の数がほぼ等しかった(日中:夜間=1:1)。それに対し、冬に相当する水温2℃付近では、夜間にみられる魚の数が日中の4倍(日中:夜間=1:4)にも達していた【図2B】。

以上の結果からは、サケは水温の高いときは昼夜とも活動し、水温が低くなると夜行性にシフトしていることがわかる。

水温が下がると夜間の採餌回数が増える

次に、エサとり回数と水温の関係をみてみると、日中は水温が高くなるほどエサとり回数も明瞭に増加したが、夜間のエサとり回数は水温と関係なくほぼ一定だった【図3A】。

同じ水温で、昼と夜どちらにより多くエサをとっていたか比較すると、水温の低いときほど夜間のエサとり割合が大きく、水温が高くなるにつれて日中のエサとり割合が増えていた【図3B】。

つまり、水温の高いときは昼間に採餌し、水温が低くなると夜間にエサをとるようになっていたのだ。

“冬の低活性”の正体は、夜行性へのシフト

ここまでの結果を総合すると、冬にサケが釣れない理由が浮かび上がってくる。

水温の高いとき、サケは昼夜とも流れの中に姿を見せており、おもに昼に採餌している。水温が低くなると、サケは日中を物陰で過ごし、夜になってから流れに姿を現し採餌するようになる。

そのため、春~秋にかけて日中よく釣れていたサケが、冬になると同じ釣り方ではほぼ釣れなくなってしまうと考えられる。

では、冬の低水温の時期に、サケが日中の活動を減らし、夜に採餌するようになるのはなぜだろうか。

サケをはじめとする多くの魚は、水温の低い冬には筋肉の温度が下がり、運動性が極端に落ちる一方、かれらの天敵である鳥は、冬でも体温が高く、俊敏に動くことができる。水中の魚を捕らえる鳥の多くは日中に活動するため、冬の間、サケは夜行性にシフトすることで捕食リスクを下げることができると考えられる。

また、多くのサケ・マス類では、冬になると眼の網膜にある視細胞の組成が変わり、夜間の光に対する感度が高まることが知られている。こうした生理的な変化も、冬の間だけ夜間に採餌するかれらの生態を裏付ける証拠だと、著者らは述べている。

冬は「活性が下がり、釣れない」と考えられていたサケが、実は夜にエサをとっていることが判明した。となれば、夜釣りで狙えば釣れるのではないか?

Fraserらが書き残した観察記録によれば、サケは日中、自身の体長の約3倍(20–30センチ)ほど離れたエサにも飛びついていたが、夜間はエサがごく近距離にくるまで反応せず、エサをめぐって他の魚を追い払う行動も観察されなかった。

実際、タイセイヨウサケの視覚に関する他の研究では、サケは月や星の薄明かりの下では、自分のすぐ近くに流れてきたエサしか視認できないことが報告されている。

つまり、冬にサケを釣ろうと思ったら、暗闇でひたすら竿を振り、文字通り、魚の“目と鼻の先”に仕掛けを流すしかないわけだ。

「夜行性になる」からといって、決して「夜に釣れる」というわけではない——行動の理屈やメカニズムがわかっても、すべてが釣果につながるとは限らない。これもまた、釣り人が受け取るべき、魚たちからのメッセージなのかもしれない。

——吉田誠[国立環境研究所 琵琶湖分室、博士(農学)]

文献情報

Fraser NHC, Metcalfe NB, Thorpe JE (1993) Temperature-dependent switch between diurnal and nocturnal foraging in salmon. Proceedings of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences 252: 135–139.

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