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サメ

魚のスレを科学する16 釣り針の磁気は釣果に影響するのか?

初めての釣り物を相手にするとき、仕掛けづくりでいちばん頭を悩ませるのは釣り針選びかもしれない。

「アタリはあるのにどうしても針にかからない!」と悔しい思いを散々繰り返した挙げ句、なにかのはずみで針のサイズを少し変えてみたら嘘のように釣れ始めた、という経験のある方も少なくないだろう。

釣り針はサイズ(号数)だけでなく形や色、材質もさまざまで、釣具屋でも棚一面に商品が並んでいる。思い返してみると私自身、「これだ!」と自信をもって釣り針を選んだことは一度もないように思う。たいていは、店のおすすめポップやおしゃれなパッケージ、よく練られたキャッチコピー等々にいちいち誘惑されつつ、大きさや色の違うものを3種類くらいカゴに放り込んでなんとなく安心する、といった有様だ。

当サイトの過去記事で、「魚は釣り針の磁気を感じとって針を認識し、回避しているかもしれない」という仮説が紹介されている。もしこれが本当ならば、針のサイズ・形・色だけでなく、釣り針の磁気の強さまで考えて釣り針選びをする必要が出てきそうだ。当然、釣り針のパッケージには「磁気の強さ」など書かれておらず、これを自力で片っ端から試すとなると気の遠くなるような作業だ。

前回の記事で紹介した研究では、魚の中でも鋭敏な磁気感覚をもつサメに釣り針の磁気を認識・学習させようとしたものの、あまり明白な結果は得られなかった。そこで今回は少し視点を変え、鋭敏な磁気感覚をもつサメやエイ(軟骨魚類)とそうでない他の硬骨魚類が、強力な磁石(あるいはそれをとりつけた釣り針)に対して違った反応を見せるか?を検証した研究を紹介しよう。

バラマンディ

“怪魚” バラマンディの磁石に対する反応

オーストラリア北東部・クイーンズランド州の沿岸では、釣り対象としても人気のバラマンディ Lates calcarifer の刺し網漁で、多数のサメが混獲される。地元の動物学者Riggらは、刺し網漁のサメ避けに強力磁石が使えるかをテストするため、よく混獲される5種のサメとバラマンディを使って室内実験をおこなった。直径2.4メートル、水深1.2メートルの円筒水槽の上方から、強力なフェライト磁石と、同じ大きさでまったく磁気をもたないアルミ製ブロックをそれぞれ吊るして水中に垂らし、水槽内を泳ぐサメまたはバラマンディ(全長35–60センチ)の反応を30分間にわたりビデオ撮影した。

すると、磁石に近づいたサメはどの種も、急な方向転換をしたり、泳ぐスピードを上げて遠ざかったりしたのに対し、バラマンディは磁石・アルミブロックのどちらにもそのような反応を一切見せずに悠々と泳いでいた。また、磁石の近く(半径75センチ以内)での滞在時間も、サメの方がバラマンディより極端に短かった【図1】。

図1

サメは磁気を感知して初見でも回避した一方、バラマンディは磁気を感知しなかったか、感知しても全く回避しなかったことがわかる。今回使った磁石やブロックを釣り針に置き換えて考えてみれば、バラマンディ釣りのときは釣り針が磁化されていようがいまいが、釣果に影響しない可能性が高いと言えそうだ。

磁石つき釣り針で釣果は変わるのか?

この結果を受けて、米国のサメ研究者O’Connellらの研究チームは今度は、磁石をつけた釣り針を使って野外で実際に釣り実験をした。釣りの仕掛けは、(1)はえ縄仕掛け:54メートルのナイロン道糸に24本の枝糸(長さ75センチのステンレスワイヤー)を等間隔にとりつけ、それぞれの釣り針にサバの切り身とフェライト磁石をセットしたもの、および、(2)投げ込み仕掛け:20ポンドのナイロン道糸に30センチのワイヤーリーダーをとりつけ、釣り針にネオジム磁石とエサ(魚やイカの切り身、エビ)をセットしたものの2タイプを使用した。はえ縄仕掛けは、春から秋にかけての日中(8時–17時)、潮止まり(満潮・干潮時刻付近)の1時間を選んで、24本の枝針のうち12本が海底に、残り12本が水中に漂うようにセットした。

投げ込み仕掛けを使った釣りは、昼夜・潮の干満によらず、1投あたり15分間を1セットとして、年間を通じておこなった。そして、はえ縄・投げ込み仕掛けのどちらにも、磁石の代わりに同じサイズのオモリを針にとりつけたダミー仕掛けを用意しておき、釣り針の磁気のあり・なしで釣果が変わるかを比較した。

すると、はえ縄・投げ込み仕掛けのどちらとも、磁石つきの釣り針でサメ類の釣果が半減したのに対し、他の魚の釣果は磁石なしの釣り針と差がなかった【図2】。

図2

磁石つきの釣り針にかかった魚の種類をみると、ニベの仲間やガマアンコウといった中型魚、ブラックシーバスと呼ばれるハタ科の底生魚、回遊魚のオキスズキなど、さまざまな魚種が含まれていた。先に紹介したバラマンディの実験結果も考えると、サメ以外の魚については、磁石つき釣り針で釣果が下がることはなさそうに思える。(筆者注:サメと比べて他の魚の釣れた数が極端に少ないが、この点について論文内では特に言及されていない。使った釣り針やエサが大きすぎたか、サメの多い水域で他の魚がそもそも少なかったのかもしれない。)

ニベ

硬骨魚は釣り針の磁気を初見では回避しない

これら2つの研究結果をみてわかるのは、サメが釣り針の磁気を感知して、初見でも回避すること。そして、硬骨魚は(少なくとも初見では)釣り針の磁気を回避しないようだ、という2点。これだけみると、冒頭で挙げた「釣り針の磁気でスレる」説はサメ以外では成立しないように思える。

サメ

ところが、今回の実験をよくよく見返してみると、「そもそも硬骨魚は、釣り針の磁気を感知していたのか?」という疑問が生じてくる。たとえば、バラマンディは磁石にもアルミブロックにも反応しなかったが、この行動をみただけでは、かれらが磁気を感知できなかったか、感知しつつも一切行動を変えなかっただけなのかはわからない。さらに、「磁気でスレる」説の最大のポイントである、「魚が釣り上げ経験を磁気と結びつけて学習するか?」をきちんと確かめるには、一度釣られた魚が二度目にどう振る舞うか?を観察する必要がある。

参考:魚のスレを科学する15 魚は釣り針の磁気を認識して回避できるのか?

しかし、筆者の知る限りでは、この説の真偽を検証できる実験はこれまでに行われたことはなく、「魚が釣り針の磁気でスレる」説の真偽は未判定のままである。

群れで泳ぐオキスズキ

……と、いうわけで、連載2回をかけて解説してきた「磁気でスレる」説の現状は「真偽不明」という宙ぶらりんな結末だった。しかし、未解決の疑問のひとつめ「硬骨魚の磁気感覚」については、2000年代以降、色々なことが新たにわかり始めている。

「ふつうの魚はそもそも、磁気を感じられるのか?」

次回はこの問いについて、もう少し掘り下げてみよう。

 

文献情報

Rigg DP, Peverell SC, Hearndon M, Seymour JE (2009) Do elasmobranch reactions to magnetic fields in water show promise for bycatch mitigation? Marine and Freshwater Research, 60: 942–948.

O’Connell CP, Abel DC, Stroud EM, Rice PH (2011) Analysis of permanent magnets as elasmobranch bycatch reduction devices in hook-and-line and longline trials. Fisheries Bulletin, 109: 394–401.

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。 専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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