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メバルはどれだけ「自分の岩場」にこだわるのか【釣魚の科学 四季折々】

暦の上では春を迎えたものの、まだまだ冷え込む厳冬期。

この時期に釣りで狙える数少ない魚種が、いわゆるロックフィッシュ、根魚たちだ。全国に広く分布するカサゴ、メバルやアイナメに加えて、北日本ではソイの仲間、西日本ではハタの仲間などを狙って、この寒さをものともせずに出かける釣り人も多いようだ。

そんな根魚の中でも“メバル”は、多くの人になじみのある、釣りやすい魚だろう。ちょっとした堤防や磯場があれば、ウキ釣りや脈釣り、近頃ではルアーを使った“メバリング”など、さまざまな釣り方で狙える魚だ。釣ってよし、食べてよし、おまけに名前の通りに目のぱっちりとした外見も愛らしく、人気があるのも納得だ。

(c) Adobe Stock

私自身もメバル釣りに出かけたことは幾度かあるが、その中で今でも印象的なのが、釣ったその場でリリースしたメバルが、ほぼ同じ場所ですぐにまた釣れた、という体験だ。しかも、サビキ釣りのように撒き餌で魚を寄せるわけでもなく、餌のついた針だけをぽーんと水中に入れるだけの仕掛けで、少し前にリリースしたのと同じ個体が、二度、三度と釣れるのだ。

魚からすれば、針にかかって水中から引き上げられる、などという恐ろしい経験をすれば、リリース直後に一目散に遠くまで逃げていってもおかしくない。それなのに、メバルはさきほど釣られたのとほぼ同じ場所に戻り、同じように餌に食いついてくる。

根魚は文字通り「根に着く」とよく言われるが、実際のところ、メバルがそこに居着いて離れないような、“棲みか”とでも呼べる場所があるのだろうか。

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メバルは決まった“棲みか”をもつのか?

Mitamuraら(2009)は、“メバル”(正確にはアカメバルSebastes inermis)の定住性(site fidelity)を検証するため、発信器を使って魚の居場所を追跡するテレメトリー調査をおこなった。

京都府の日本海側、舞鶴湾の岸壁で釣り上げた3個体のメバルの腹部に超音波発信器(ピンガー)を埋め込み、岸から約100メートル離れた地点で魚を放流した。その後、放流地点の周囲や、釣りをした岸近くに設置した受信機で魚から発せられる信号を検出し、かれらがどのように移動したかを追跡した。

すると驚いたことに、放流した当日のうちに3個体とも、かれらが釣られた岸壁付近まで戻っていたのだ【図】。

もう少し詳しく見てみよう。

岸壁付近の水中には、50–100メートル間隔で3つの岩場が並んでおり、放流した3個体のうち2個体は中央の岩場で、残り1個体は東側の岩場で釣り上げられた魚だった。

これらのメバルを、中央の岩場から約100メートル離れた沖合で放したところ、どの個体も岸に近づいてしばらくうろついた後、その日のうちに、3つの岩場の中から元いた岩場をきちんと選んで戻っていた。

さらに、翌日以降も引き続きかれらの移動を追跡して行動範囲を確かめてみたところ、どの個体も、戻った先の岩場のごく狭い範囲(20–40メートル以内)で活動していた【図中の網掛け部分】。

これらの結果から、メバルはある程度狭い範囲(約数十メートル)を決まった棲みかとしており、少し離れた場所に連れていかれても、元の棲みかに戻ってくる性質をもつことが分かった。

根魚として有名なメバルは、文字通り“根に着く”魚だったのだ。

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冒頭でも紹介した通り、日本で「根魚」と呼ばれる魚には、岩場で釣れる様々な魚種が含まれる。いっぽう、英語で“rockfish”というと、おもにメバルの仲間(メバル属Sebastes)を指すことが多い。

全世界で100種以上いるメバルの仲間は、北太平洋を中心に北大西洋や南半球にまで分布しており、各地で(日本と同様に)釣り対象として人気だ。

そのためか、メバルの仲間の行動研究は各地で盛んに行われており、日本の“メバル”以外でも、決まった棲みかへの定住性や、離れた地点から元の棲みかへの回帰行動(homing)が観察されている。「メバルといえば、岩場に住み着いている魚」という共通のイメージは、どうやら洋の東西を越えて当てはまるらしい。

「岩場にある自分の棲みかを離れない」というメバルの習性。

魚を求めてあちこち飛び回る釣人からみると、根に着くメバルたちはまさに「釣りに行けば、きっとそこで出会える」存在なのだろう。その安心感こそが、かれらが世界中の釣人に愛されている理由なのかもしれない。

文献情報

Mitamura H, Uchida K, Miyamoto Y, Arai N, Kakihara T, Yokota T, Okuyama J, Kawabata Y, Yasuda T (2009) Preliminary study on homing, site fidelity, and diel movement of black rockfish Sebastes inermis measured by acoustic telemetry. Fisheries Science 75: 1133–1140.

2017年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻博士課程修了。同10月より東京大学大気海洋研究所 特任研究員を経て、2018年4月より、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員。 専門は、動物搭載型の行動記録計(データロガー)を使った魚の遊泳行動に関する力学的な解析と野外での魚の生態研究。 小学生の頃、祖父との海釣りで目にした、海面に躍り出た魚の一瞬のきらめきに魅せられて、魚の研究者を志す。「人と魚の間で繰り広げられる『釣り』という営みを、魚目線で見つめ直してみよう」、そんな視点から、釣り人の皆さんの役に立ちそうな学術研究の成果を紹介していきたい。

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