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ラージマウスバスの視覚とルアーの色の好みを科学的に分析してみる

釣りを科学的に分析する第一人者、グンゾー先生こと川村軍蔵さんの「ガチ」な解説をお届けします。ブラックバスはどんな世界を見ているのか?ということを考えたことがない釣り人はいないでしょう。もちろん完全な正解はありませんが、重要なヒントを与えてくれます。

グンゾー先生の過去記事一覧はこちらから。

動物の行動研究と感覚研究は不可分な関係にあり、動物の行動を理解するにはその動物の感覚を知らねばならない。

魚釣りにおいても同様で、釣りにおける魚の行動について“なぜ”の回答を得るには魚の感覚についての知識が重要である。ここではラージマウスバスの視覚とルアーの色の好みについて述べたい。

ラージマウスバスのルアー色の好みについて述べる前に、先ず基本的なことを確認したい。

その1)はラージマウスバスの捕食行動に視覚が使われること、
その2)はラージマウスバスが色を識別できる(色覚をもつ)こと、

である。

ラージマウスバスとその視覚、捕食の関係を詳しく見てみる

視覚による捕食を調べる簡単な方法は、水槽内のラージマウスバスに水槽の外から小魚を見せることである。ラージマウスバスは水槽の外の小魚に食いつこうとする。アメリカ・ジョージア大学のLinser ら (1998)によるラージマウスバスの捕食行動の詳細な水槽観察によると、ラージマウスバスは活きた金魚とゼラチンボール(味も臭いもない)を同じ頻度で口に取り込んだ(この段階では視覚による捕食である)。そして味付きゼラチンボールは呑み込まれたが、味無しではすぐ吐き出されたので、可食か否かの判断は味覚でされるのは明らかである。

(この時、興味深いのは、捕食された金魚の鱗を咽頭歯を使って剥ぎ取り、鰓蓋の下から吐き出すことである。咽頭部には味蕾が高密度にあって、この“鱗剝ぎ”には味蕾が関与しているらしい。)

視覚による捕食であれば、明るさによって餌への反応距離が影響を受ける、すなわち薄暗くなると反応距離が短くなるであろう。これを調べたアメリカ カンサス大学のHowick and O’Brien (1983)の水槽結果の一部を紹介しよう。

使った水槽は5m×60cmの長方形のもので、片方の端の透明な仕切り板の内側に餌魚のブルーギルを入れておき、他方の端に放したラージマウスバスが餌魚に接近を開始した時の反応距離を測った。

その結果が図1で、餌魚に動きがある場合の方が静止魚より反応距離が大きいが、いずれにしても最大2m程度で意外に小さい。ラージマウスバスは待ち伏せ型の捕食魚で、遠くの餌魚に高速で突進するタイプではないので、反応距離が小さいのであろう。

図1 水槽実験におけるラージマウスバスの餌魚への反応距離と餌魚の大きさの関係(Howick and O’Brien , 1983)
反応距離、ラージマウスバスが餌魚(ブルーギル)に接近開始した時の餌魚との距離。
餌魚が静止した時より動いている時の方か視認され易いことが分かる。

 

さらに、明るさを3340−0.195ルクスに変えてこの反応距離を調べた結果が図2である。特徴的なのは、反応距離が5.59ルクスまでは変化がなく、1.49ルクスと0.195ルクスで急に小さくなることである。ラージマウスバスの視覚による捕食の証拠の一つであるが、低照度で急に餌魚への反応距離が短くなるのは、錐体視覚から桿体視覚に変化するためと私は考えている。桿体視覚では色の識別ができなくなる。

図2 明るさを変えたさ時の反応距離の変化(Howick and O’Brien , 1983)
図中の数字は照度(ルクス)を示す。

 

上の実験結果は確かに薄暗くなると摂食反応行動が制限される事を示したが、 0.195ルクス(満月下での水面上照度と同等)でも餌魚を見つけて捕食可能な事が気になるので、捕食行動に於ける側線系の役割を検証しよう。

ラージマウスバスの捕食方法はラム吸い込み型という。ラージマウスバスが餌魚に近づいた後(ラム)、口を大きく開いて餌魚を吸い込む(図3)。完全な吸い込み型は餌魚が口の近くに来るまでじっと待つ。

図3 ラージマウスバスのラム吸い込み摂食行動
a、ラージマウスバスは前進して餌魚に接近(ラム)
b、ラージマウスバスは大きく開口して吸い込みを開始
c、吸い込み終了。

 

アメリカ 南フロリダ大学のGardiner and Motta (2012)が行った実験は、ラージマウスバスの摂食行動における視覚と側線感覚の役割を明瞭に示した。

彼らは、側線機能を塩化コバルトで薬理学的に一時閉塞した魚、暗黒下(暗室内)に置かれて盲目状態の魚、正常な対照魚という3つの条件下で摂食行動を高速ビデオ撮影した。暗黒下では赤外線照射して赤外線カメラで撮影した(ラージマウスバスには赤外線が見えない)。餌魚は活きたモスキートフィッシュ(編注:アメリカ原産の、メダカのような魚)である。

結論をいうと、ラージマウスバスは盲目状態でも摂食でき、その時の感覚器は側線系であった。しかし、盲目魚では摂食行動が正常な魚と異なった。まず、ラム行動が省略されてラージマウスバスは完全な吸い込み捕食を行った。さらに、盲目魚の吸い込み時の口の動きは急速で吸い込み力が強い。その様子を示したのが図4である。

図4 魚の条件を変えたときのラージマウスバスの口の動きの解析結果(Gardiner and Motta, 2012)
盲目状態魚では開口が速く吸い込み行動が短い。視覚を正常に機能する時には側線系が摂食行動に関与しないことがわかる。

 

バスは色を識別しているのか?

次にラージマウスバスが色を識別できることを述べたい。

色を識別できるためには網膜に波長感度特性が異なる視細胞が2種類以上(例えば赤い光に感度が良い視細胞と青い光に感度が良い視細胞)なければならない。

これを確認した私の方法は、生きた網膜に微小ガラス電極を差し込み、様々な波長の点滅光で網膜を刺激した時の水平細胞の電気的変化(S電位という)を記録した(Kawamura and Kishimoto, 2002)。

正負のS電位の変化パターンが記録されると色を識別可能と判断される(図5)。一方、米人研究者のMitchemら(2019)の方法は、視細胞の分光吸光度を測定したもので、種々の波長の微小光束で 一個ずつの視細胞をスキャンさせての吸光度を記録するもので、微小分光光度計法と言われる方法である。その結果を図6に示した。また、彼らはラージマウスバスにピペットの色を識別する摂食訓練をし、赤、緑、青、黄、黒、および白の6色の識別訓練に成功している。ラージマウスバスは色を識別できることは明らかで、ルアーの色を選択する可能性がある。

図5 ラージマウスバスの網膜から記録されたS電位(Kawamura and Kishimoto, 2002)
いずれも短波長では基線よりマイナス側(下側)に、長波長ではプラス側(上側)に変化していて、ラージマウスバスが色覚をもつことを示すS電位記録である。横軸は波長 (nm)を示す。

図6 ラージマウスバスの単錐体と双錐体で測定された顕微分光吸光度(Mitchemら、2019)
単錐体は緑色光に、双錐体は赤色光に感度のピークがあることが分かる。

 

では、ルアーの色の好みはあるか?

本題のラージマウスバスにはルアーの色に好みがあるかに入ろう。この問題に回答を得る方法は、異なる色のルアーを使った釣り試験しかない。釣獲率の高い色のルアーが好まれる色という判断である。このような研究はバス釣りファンには待望のもので簡単で誰もが出来そうであるが、カナダ人研究者であるMoraga, Wilson and Cooke (2015)の研究論文しか見つからない。

Cookeは著名なバス研究者で多くの研究論文を発表している。彼らは図7に示した6色の軟質プラスチックのワームルアーを使って,Opinicon湖で釣獲試験を行った。釣獲者は中級の熟練者8人で、試験期間は約一ヶ月,日出から日没まで20分毎に色の異なるルアーに変えて釣り続けた。その結果、合計釣獲数は119尾で、色毎の内訳は青25、黒23、白22、蜂色17、オレンジ16、赤16であった。この程度の差は統計学的に有意な差とはいえず、ラージマウスバスにルアーの色の好みがあるという結論は得られなかった。

魚が色を識別できるためには水中環境が充分明るくなければならない。日出から日没まで釣ったと記述されているが、水中の明るさは測定されていないので、ラージマウスバスはルアーの色の選択をしないと結論するには早計かも知れない。

図7 Moragaら(2015)が使った6色の軟質プラスチックのワームルアー(長さ12.7 cm)

ラージマウスバスは色覚をもち、 確かに視覚を使った捕食を行う。しかし、このような魚にルアーの色あるいは餌の色に好みがあるとは限らないのである。私はかつて、色覚をもち、かつ視覚で捕食する5種の魚で餌の色の好みを調べたことがある(Kawamuraら, 2010)。その結果、チヌ、メジナ、およびキチヌでは背景色にかかわらず明瞭な黄色餌の好みが確認できたが、マアジとゴマサバでは餌の色の好みを検出できなかった。前者3種の魚の黄色の餌の好みは先天的なものだと私は考えている。植物食性の鳥類の多くは赤い餌を好む(Duanら, 2015)。これは熟した実が赤いことから理解できるが、魚の餌の色の好みの生物学的意味は皆目見当がつかない。

ついでにグッピーの餌の色の好みについて紹介したい。水槽の壁にレーザー光ポインターで光の点をつくると、グッピーはそれをついばもうとする。赤光点に強く反応する個体どうしで交配させ続けると赤への反応行動が強まる。青光点に強く反応するグッピーも同様で、グッピーの色の好みは遺伝的なのである(Cole and Endler, 2015)。

 

引用文献

Cole, G.L. and Endler, J.A. (2015). Artificial selection for food colour preferences. Proceedings of Royal Society B 282: 20143108.

Duan, Q., Goodale, E. and Quan, R.C. (2014). Bird fruit preferences match the frequency of fruit colours in tropical Asia. Scientific Reports 4: 5627.

Howick, G.R. and O’Brien, W.J. (1983). Piscivorous feeding behavior of largemouth bass: an experimental analysis. Transactions of the American Fisheries Society 112: 506-516.

Kawamura, G., Kasedou, T., Tamiya, T. and Watanabe, A. (2010). Colour preference of five marine fishes: bias for natural and yelloe-dyed krill in laboratory tanks, sea cages and earthen pond. Marine and Freshwater Behaviour and Physiology 43: 169–182.

Kawamura, G. and Kishimoto, T. (2002). Color vision, accommodation and visual acuity in the largemouth bass. Fisheries Science 68: 1041–1046.

Linser, P.J., Carr, W.E.S., Cate, H.S., Derby, C.D. and Netherton, J.C. (1998). Functional significance of the co=localization of taste buds and teeth in the pharyngeal jaws of the largemouth bass, Micropterus salmoides. Biological Bulletin 195: 273−381.

Mitchem, L.D., Stanis, S., Zhou, M., Loew, E., Epifanio, J.M. and Fuller, R.C. (2019). Seeing red: color vision in the largemouth bass. Current Zoology 65: 43−52.

Moraga, A.D., Wilson, A.D.M. and Cooke, S.J. (2015). Does lure colour influence catch per unit effort, fish capture size and hooking injury in angled largemouth bass? Fisheries Research 172: 1-6.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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