スマルア技研

釣りを科学で解き明かすメディア 
Powerd by スマートルアー

濁度がラージマウスバスの捕食に与える影響 「濁り」と、そのもうひとつの要素 グンゾー先生・ルアーカラー考

編集部より

グンゾー先生こと川村軍蔵さんの、ルアーのカラーについての科学的考察を続けていきます。

前号:ラージマウスバスの視覚とルアーの色の好みを科学的に分析してみる
前々号:ラージマウスバスのルアー色の好みを再考する

ルアーのカラーを選ぶときに一番気になるのは、透明度ですよね。サイエンスの世界では「濁度」と言います。今回のグンゾー先生は、この濁度に関して考えを深めていきます。そして編集部Yが気になった、単なる濁りではない、もうひとつの要素にも言及されています。

グンゾー先生の過去記事一覧はこちらから。

バスアングラーたちはルアーの色を選ぶ際に釣り場の濁度を勘案するらしい。ラージマウスバスは捕食の際に視覚に強く依存するので、濁度の影響を受けるだろう。その影響がどのようなものかを考えたい。

濁度が増すと水中物体の像のコントラストが霞んでダイバーには見えにくくなる。まず、魚のコントラスト感度について説明したい。図1はブルーギルのコントラスト閾値を示している。ブルーギルを訓練して発光ダイオードで作った図形を識別できるようにした後に、図形のコントラストと提示時間を種々変えた。ブルーギルに使った実験装置で学生のコントラスト閾値を測定し、両者を比較したものが図1である (Kawamura and Shimowada, 1993)。

ブルーギルのコントラスト閾値はヒトの閾値より30倍も低かった。すなわち、濁った水中でも物体を見る能力がヒトの30倍ということである。

図1 コントラスト閾値のブルーギルとヒトとの比較 (Kawamura and Shimowada, 1993)

この実験で問題になったのが、ブルーギルのコントラスト閾値が水温に影響されないことであった (Kawamura and Shimowada, 1994)。変温動物の感覚系は温度の影響を受け、低温では感覚器の機能が大きくて低下すると考えられていた。私の実験が間違いではないかと批判されたのである。

その答えはLinthicum and Carey (1972) が既に発表していた。ブルーギルやラージマウスバスの棲息する河や湖の冬期水温は非常に低いが、冬期にこれらの魚の視覚能力が低下したり味や臭いを感じなくなることはない。クロマグロが眼の近くに発熱器官をもっていて、脳や眼の温度が環境水温より数度高いことをLinthicum and Careyが発見し,この生理的ヒーターの熱源は代謝で生じる熱であることを発表した。その後キンギョを含む多くの魚で追試され、生理的ヒーターの存在が広く認められている。

海産魚の仔魚は例外なく視覚捕食者である。仔魚の捕食行動に及ぼす濁度の影響は顕著で、清水よりある程度濁った水の方が餌の食いが良く、その結果成長も良いことは良く知られている。図2は水槽中に植物プランクトンを入れて濁った状況にしてニシン仔魚の動物プランクトン摂取量を、清水中と比較したもので、濁った方が清水中より明らかに摂取量が多い (Boehlert and Morgan, 1985)。

この後にこの研究は多くの研究者たちによって追試され、濁度の仔魚に与える好影響が確認された。適度に濁った水中では、仔魚が動物プランクトンを見付ける範囲(捕食反応距離)が広くなるため捕食が促進されることが分かっているが、その視覚的機構は分かっていない。

図2 清水中と植物プランクトンで濁りを与えた飼育水におけるニシン仔魚の動物プランクトン摂取量の比較 (Boehlert and Morgan, 1985)。図中の写真はニシン仔魚。

ラージマウスバスと濁度の関係

さて、濁った河や湖に棲むラージマウスバスの場合はどうであろうか。

濁度は濁度計で計るが(単位はNTU)、水の濁りの程度は透明度でも示される。透明度板を沈めて見えなくなった深さをmあるいはcmで示したのが透明度である。標準の透明度板は直径 30cmの白色円盤であるが、直径には科学的根拠がなく、知人の海洋学者は直径5cm(ポケットサイズ)の白色円盤を使っていた。

濁度と魚の摂食行動の関係を述べた論文では濁度の単位にNTUを使っているので、NTUと透明度の換算図を図3に示した。これまで行われた水槽実験や湖沼調査での濁度は30 NTU程度であるが、50NTUを越えているのもあり、水槽実験の最大は250NTUであった。

図3 濁度(NTU)と透明度(cm)の換算図

濁度が魚食性魚の摂食に与える影響を調べた研究は多く、研究方法は2通りある。①水槽実験と②野外で採集された魚の胃内容物を調べる方法である。これらの研究の問題は、結果が一様でないことである。例えば、ラージマウスバスでは、濁度の影響はないとするものがあり(Reidら, 1999; Bolton, 1985)、一方では摂食量が減ったなど負の影響の報告がある (Foster, 1979; Vandenbyllaardiら, 1991; Shoup and Wahl, 2009; Huenemannら, 2012)。そして、カワカマス についても同様である。調査実験結果がこのようにくい違う原因は明らかではないが、私は水中の溶存酸素量(DO)が気になる(後述)。

Shoup and Lane (2015)の水槽実験と野外での調査はこのような問題の複雑さを明瞭に示した。彼らは水槽内のラージマウスバスにザリガニ、ブルーギル、淡水コハゼを与え、水の濁度を変えて(0−58 NTU)24時間後の摂食量を調べた。一方でオクラホマ州の3つの人工湖で捕獲したラージマウスの胃内容物と人工湖の採集地の濁度(0.75−20.0 NTU)との関係を調べた。

その結果、水槽実験では濁度が増すに従って摂食量が減少したが、人工湖ではそのような減少は認められなかった。また、湖の空胃個体の出現率 39−68%は濁度と無関係であった。

濁度が増す原因は多様であるが、濁度物質が水中の溶存酸素(DO)を減らすことがある。例えば、濁り物質が水中への光透過を妨げ、植物プランクトンの増殖が低下し、その結果、DOが減る。DOが減るとラージマウスバスの摂食量は顕著に減る(French, 2016)。濁度の影響調査報告にはDOの記載がない。濁度のラージマウスバスの摂食への影響が異なるのはDOの違いが原因かもしれない。

引用文献

Boehlert, G.W. and Morgan, J.B. (1985). Turbidity enhances feeding ability of larval Pacific herring, Clupea harengus pallasi. Hydrobiologia 123: 161–170.

Bolton, B.D. (1985). A comparison of stomach contents of largemouth bass and white crappie from turbid and clear portions of Thunderbird Reservoir, Oklahoma. M.Sc. thesis, University of Oklahoma, Norman, Oklahoma.

Foster, J.R. 1979. Factors influencing the predator–prey relations of a small esocid, the grass pickerel (Esox americanus vermiculatus). Ph.D. thesis, University of Toronto, Toronto, Ont.

French, C.G. (2016). Behavior and habitat selection of largemouth bass in response to dynamic environmental variations with a focus on dissolved oxygen. M.Sc. thesis, Univeristy of Illinois, Urbana, Illinois.

Friedlander, M. J., Kotchabhakdi, N. & Prosser, C. L. (1976). Effects of cold and heat on behavior and cerebellar function in goldfish. Journal of Comparative Physiology 112: 19–45.

Huenemann, T.W., Dibble, E.D. and Fleming, J.P. (2012). Influence of turbidity on the foraging of largemouth bass. Transactions of the American Fisheries Society 141: 107–111.

Kawamura, G. and Shimowada, T. (1993). Optical critical duration and contrast thereholds in the freshwater fish, Lepomis macrochirus, as determined behaviourally. Fisheries Research 17: 252–258.

Kawamura, G. and Shimowada, T. (1994). Temperature-independence of the optical duration of the bluegill Lepomis macrochirus. Fisheries Science 60: 235–236.

Linthicum, D.S. and Carey, F.G. (1972). Regulation of brain and eye temperatures by the bluefin tuna. Comparative Biochemistry and Physiology A 43: 425-430.

Reid, S.M., Fox, M.G. and Whillans, T.H. (1999). Influence of turbidity on piscivory in largemouth bass (Micropterus salmoides). Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 56: 1362–1369.

Sepulveda, C.A., Dickson, K.A., Frank, L.R. and Graham, J.B. (2007). Cranial endothermy and a putative heater in the most basal tuna species, Allothunnus fallai. Journal of Fish Biology 70: 1720–1733.

Shoup, D.E. and Lane, W.D. (2015). Effects of turbidity on prey selection and foraging return of adult largemouth bass in reservoirs. North American Journal of Fisheries Management 35:913–924.

Shoup, D.E. and Wahl, D.H. (2009). The effects of turbidity on prey selection by piscivorous largemouth bass. Transactions of the American Fisheries Society 138: 1018–1027.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

こちらもおすすめ