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ラージマウスバスのルアー色の好みを再考する グンゾー先生・ルアーカラー考

編集部より

釣り人に科学的な知恵を伝えてくれる研究者・川村軍蔵さん(グンゾー先生)、前号「ラージマウスバスの視覚とルアーの色の好みを科学的に分析してみる」に続き、バスの好きな色について考えを深めていきます。科学的な思考プロセスを追体験してください。

編集部ヤマダが気になったのは、結末の部分。今、私たちが進めている「スマートルアー」の機能が大きく関わっています。

グンゾー先生の過去記事一覧はこちらから。

イリノイ大学のBrown, F.R.Jr. 1937)の研究はラージマウスバスが色を識別できることを証明することが目的であった。古い研究論文であるが、内容は非常に興味深いのでここで紹介したい。

実験では、ブラックバス稚魚(全長2.5-4.8 cm)を水槽で、異なる色に塗装した ピペットを使ってそれらの色を識別する訓練をした。

稚魚は水槽に入れたピペットにストライクする習性がある。稚魚に異なる色のピペットを複数同時に提示して、訓練色のピペットに寄ってきたらピペットから餌のミジンコを噴出させて与え、非訓練色に寄ってきたら弱い電気ショックを与えるということを繰り返した。使った色は赤、黄、緑、青、それら の中間色、さらに白、黒、6種の濃さが異なる灰色で(これらは厳密には色とは言わないが)、合計28種の色であった。

結果は、識別の難易度は色によって異なるが、いずれも識別できた。識別はピペットの色によるもので、色の濃さ(明るさ)には無関係であった。つまり、ラージマウスバスの色覚は実証された。

興味深いのは、稚魚は赤いピペットに特別な反応を示したことである。稚魚は訓練前から赤に誘引される傾向が顕著で、常に赤いピペットの近くに居た。次いで緑、黄緑、白、青、黒の順に誘引された。ラージマウスバス稚魚は色に嗜好性があり、赤を好むと結論して良さそうである。

この結果はラージマウスバスの網膜の感度を調べた私の実験結果と符号する。網 膜に微小ガラス電極を挿入し、種々の波長の異なる光を眼に照射して網膜の水平細胞の電気的応答を記録した実験で、3種類の明暗型反応(緑、赤I、赤II)が記 録された(図1, Kawamura and Kishimoto, 2002)。総記録数の80%が赤Iと赤IIであったので、ラージマウスバスの眼は赤に感度が高いと考えられる。

図1 3種の明暗型水平細胞応答。ピーク応答波長:上、458−553nm(緑色光);中、640nm(赤色光,赤I );下、673nm(赤色光,赤II)。

しかし、これらの結果は前回述べた釣獲試験とは全く異なる。振り返っておく と、合計釣獲数は119尾で、色毎の内訳は青25、黒23、白22、蜂色17、オレンジ 16、赤16であった (Moragaら, 2015)。Moragaらは、Brownの論文を引用していたが、赤いルアーがなぜ好まれなかったかについては言及せず、ルアーの色は釣獲に影響を与える要因ではないと繰り返すだけであった。

異なる2つの研究結果をどう見るか

ここで、なぜMoragaらの結果がBrownおよび私の結果と食い違うのかを検討して みたい。

Brownが使ったラージマウスバスはアメリカ・イリノイ州のクリスタル湖で捕獲された稚魚。Moragaらが釣獲試験を行ったのはカナダ・オンタリオ州のオピオ ン湖で、釣れたラージマウスバスは全長21.1−49.4cmで稚魚ではない。

成長による色識別感度(分光感度)の変化に起因するのであろうか。サケ科の魚は稚魚が河川から海に棲息環境を変える時に分光感度が変わるが、海中の分光分 布が違うことへの適応的変化である。ラージマウスバスは成長による棲息水界の変化はないので、これは考えられない。

ヒトでは若い頃の色の嗜好性が高齢化に伴って薄らぐのは高齢化による眼のレンズの老化が原因とされるが(Nurlbert and Ling, 2012)、魚では棲息域が変わらない限り、成長による分光感度の変化は認められていない。

蝶や蜂による花の色の顕著な嗜好性は先天的であると同時に摂食経験によって変化して学習的であるが、消失することはない(Nurlbert and Ling, 2012)。

Brownの色識別訓練実験は水槽内(充分明るく澄んだ水)であるが、Moragaらの釣獲試験は人工湖で行われた。この違いが影響したのであろうか。その可能性はある。しかし、かつて私が行った魚の餌の色の嗜好性の研究では、実験は海中イケス、灰色あるいは白色のタンク、および素堀池で行ったが、背景条件に関わらずチヌ、メジナ、キチヌは常に黄に顕著な嗜好性を示した一方、ゴマサバとマアジは全く嗜好性を示さなかった(Kawamuraら,2010)。餌の色の嗜好性は背景条件の影響を受けず、魚種による違いだった。

ラージマウスバスの摂食特性から何かヒントが得られるかも知れないと思い、文献検索をしてみた。胃内容物調査報告は沢山あり、ラージマウスバスの成長と生息地による違いなどが調査されていて選択的捕食が報告されている。しかし、生息域に於ける動物相の調査が行われていないので、その場所に数が多い種類が捕 食されているだけで、選択的捕食ではない可能性を否定できない。結局、色による選択的捕食の情報は得られなかった。

ラージマウスバスは赤いルアーを好むにちがいないと私は考えている。その実証には異なる条件(水の透明度や釣獲層の明るさ)下での釣獲試験が必要である。それを出来るのはバス遊漁者たちなので、Brownの実験結果を彼らに周知して興味をもってもらうことが必要である。また、ラージマウスバスは水槽外の動く物体にアタック反応を示すので、色の異なるルアーをラージマウスバスに見せてその反応を調べるという簡単な実験からでも何かヒントが得られるのではないだろうか。

引用文献

Brown, F.R.Jr. (1937). Responses of the large-mouth black bass to colors. Illinois Natural History Survey Bulletin 21: 33−55.

Hurlbert, A. and Ling, Y. (2012). Understanding colour perception and preference. In: Best, L (ed.), Colour Design: Theories and Application. Woodhead Publishing, Rlsevier, Duxford UK, pp. 169−192.

Kawamura, G., Kasedou, T., Tamiya, T. and Watanabe, A. (2010). Colour preference of five marine fishes: bias for natural and yelloe-dyed krill in laboratory tanks, sea cages and earthen pond. Marine and Freshwater Behaviour and Physiology 43: 169–182.

Kawamura, G. and Kishimoto, T. (2002). Color vision, accommodation and visual acuity in the largemouth bass. Fisheries Science 68: 1041−1046.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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