スマルア技研

釣りを科学で解き明かすメディア 
Powerd by スマートルアー

人工的磁場が魚に与える影響を考える グンゾー先生・魚の感覚に迫る

魚が釣れるor釣れないに、もし、針が持つ磁気が関係していたとしたら……。

普段私たちが気にすることのない、磁力・磁場。スマルア技研では、これまでの記事で、マニアックに探求を続けてきました。

本記事では、この問題をさらに科学的に深掘りしてみます。研究者がどこまで深く考えているか、その一端をお届けします。

私はかつて「スマルア技研」に“魚のスレに釣り針の磁化が関係している”と書いたが、ヒトには感じない磁場の話であるので、読者の興味を喚起しなかったようである。

魚は痛みを感じない。「磁気」を感じて釣り針を認識しているという最新説

しかし、スレとの関係は重要なことなので、再度投稿した。魚や甲殻類の磁気感覚は多くの種類で確認されていて、磁気感覚器の所在も確認あるいは推定されている。ラージマウスバスの磁気感覚はまだ報告されていないが、調べれば間違いなく確認されるであろう。

磁場と魚の磁場感覚器

電気が流れる(電子が動く)とそこに磁力が生じ、磁力が及ぶ空間を磁場という。地球は大きな磁石で磁場(地球磁場)に覆われている。磁場の単位はナノテスラ (nT, 10-9 T) あるいはマイクロテスラ(μT, 10-6 T)を使う。地球磁場は赤道で約30 μT、極地で約60 μT である。ちなみに私がウナギの磁場感覚を研究していた鹿児島大学水産学部構内の地球磁場は32,524 nT であった。

磁場の中を伝導体(例えば海水)が動くと電気が発生して電場ができる。電気流速計は海中の微小電場を測定して流速に換算する測定器である。

このように磁場と電場は物理的に密接な関係にあるが、感覚的には全く別ものである。臭いと味の刺激はどちらも化学物質であるが、感覚的には全く別という関係に似ている。

磁場感覚は磁場感覚器からの情報が三叉神経によって脳に伝えられる。一方、電場感覚器はロレンツニ瓶器と呼ばれ、魚の頭部表皮に開いている小孔の中にあるので、側線系の一部のように見える。そしてロレンツニ瓶器からの電場情報が側線神経の分枝によって脳に伝えられる (Walker ら、2007)。海産魚は海中電場を探知して回遊など定位行動に利用していると考えられているが、まだ実証されていないので、ここでは電場感覚は扱わない。

魚の磁場感覚感度

磁場は方向性(N極、S極)と強さをもつ物理量であるので、人工的に加減が可能である。地球磁場と強さが等しいが方向性が逆な人工磁場を付加すると磁場がゼロの場を作れる。魚に行動変化あるいは心拍数などの生理学的変化を生じた時の磁場の加減量から磁場感覚閾値を推定することができる。

このようにして推定した閾値はキハダマグロで10,000−50,000 nT (Walker, 1984)、ウナギで12,663 nT である(Nishi and Kawamura, 2005)。サケ稚魚では地球磁場の1.5% (899 nT) の変化では行動変化は見られなかったので (Naisbett-Jonesら, 2020)、閾値はこれ以上なのであろう。ミツバチは 200 nTの環境磁場の変化で帰巣できなくなるので、ミツバチの磁場感覚は非常に鋭いといえる (Ferrari, 2014)。これは興味ある問題であるが報告例は少ない。

漁具に磁石を装着したら漁獲率が向上したという操業試験は、人工磁場の影響が明らかなので、磁気感覚閾値を推測できそうである。Trańskiら (2005) がイセエビ用の筒状トラップの入り口に磁石を装着したら平均漁獲量が1.6倍になったという。トラップ(隠れ場)に入るのは視覚行動であるが、人工磁場の影響は明らかである。筒の入り口から1 cmと10 cmの位置の磁場はそれぞれ410 μT と190 μTであったので、磁場の影響範囲を1 mとするとイセエビの磁場感度は数μTと推測される。

世界的にサメ、エイ類の資源量が減少していることから、これらの漁獲量を減らす工夫がされている。漁具に磁石を装着するのである。篭漁具や釣り針に磁石を装着するとサメやエイの混獲が顕著に減る。装着する磁石の磁場はかなり強力(例えば1,500 mT)なので、感度のよい磁場感覚をもつサメ、エイ類は強力な人工磁場を嫌うのだろうと考えられている (Connellら, 2011; Richardsら, 2018)。しかし、装着磁石の磁場が強すぎて磁場感覚閾値の推定には役立たない。

生物に及ぼす人工磁場の影響

上記した 「スマルア技研」の私の投稿の後、吉田誠さんが「スマルア技研」に投稿されて、硬骨魚は磁場を感知して記憶できるのか?と疑問を呈しておられた。

魚のスレを科学する15 魚は釣り針の磁気を認識して回避できるのか?

彼が参考にされた2つの論文の一つは、サメと硬骨魚を磁石とアルミニウム箱を識別する訓練をしたもので、サメは識別できるようになったが、硬骨魚は識別できるようにならなかったというものである (Riggら, 2009)。

残念ながらこの実験には大きな間違いがあった。間違いとは、使った磁石の磁場が2.5-23.4 mTと地球磁場の約千倍の強さであったことだ。

魚の側線器の感覚細胞は求心性神経と遠心性神経で脳に繋がっている。鳥の磁場感覚器は3種類の候補があるが、まだ確定的ではない。しかし、魚と同様なマグネタイト方式(後述)の磁場感覚器は求心性神経と遠心性神経もつので (Lefeldtら, 2014)、魚の磁場感覚器も求心性神経と遠心性神経をもつと考えて話を進めよう。

求心性神経は感覚細胞からの感覚情報を脳に送り、遠心性神経は脳から感覚細胞に信号を送る。感覚刺激が大きすぎると遠心性神経が働いて求心性神経の働きを停止させるか低下させて感覚器の機能を過度の刺激から護る。魚の聴覚器である内耳も同様である。ロレンツニ瓶器は求心性神経だけであるので、このような抑制的機能はない。過度の磁場を与えられた魚の磁場感覚器は直ちに機能を停止し、魚は磁場を感知できない状態になるに違いない。このような状態の魚に磁場を識別する訓練をしても成功するはずがない。上述の Riggら実験の問題はこれだったのである。

言いかえれば、耳を手で塞いだ人に音楽を聴かせて音楽の感想を聞くようなものだろう。吉田さんの疑問は当然であった。 人工磁場への訓練に鳥や昆虫を使う場合、付加する人工磁場は通常地球磁場より少し強い程度である (Slabyら, 2018)

同様な問題を抱えた実験が他にもある。

人工磁場の生物への影響を知るには、人工磁場を用いて地球磁場を局所的に変えて生物に見られる様々な変化を調べる。生物の反応は二通りある。一つは磁場感覚とは無関係な変化で,他は磁場感覚器を通じた変化である。前者はバクテリアの走磁性や精子の活性変化である。バクテリアは磁場内のN極に泳ぐ性質があり、磁場の方向を変えると泳ぐ方向が逆になる。この磁場に影響される方向性は死んだバクテリアでも起こり、バクテリアが体内にもつ極微小鉄球のマグネタイト(磁場感覚器の磁場感知組織)が磁気の影響を受けるためらしい (Frankel and Blakemore, 1981)。魚の精子は人工磁場では運動能力が高まり、寿命が伸びて受精率が高まる (Formickiら, 2019)。しかし、この時の人工磁場は1−5 mTと強い。Formickiらは精子の人工磁場への感応を磁場感覚に含めているが間違いであろう。

我々の周囲の環境には様々な人工磁場がある。その最大なものは高電圧送電線が発する磁場である。多くの風力発電所は浅い沿岸やその沖合に建設されていて、発電用風車から高圧送電線で陸に送電されている。漁場内に浅く埋設されている送電線から発生する磁場が水産動物に与える悪影響が心配されている。空中であろうと水中であろうと送電線は磁場を発する。

高電圧送電線が発する磁場に影響を知る為に行われた調査実験は沢山あるが、いずれも“影響は検出できなかった”という結論である。その一つの例が、ミシシッピー河の急流を利用して8,000 MWの電力を発電する水力発電計画の事前影響調査で、合衆国政府エネルギー局主導の調査である (Cadaら, 2012)。報告書によると淡水産のタニシ、二枚貝、ミノウ、ナマズ稚魚、チョウザメ稚魚、ブルーギル稚魚、ストライプトバス稚魚を水槽に入れて35−150 mT という人工磁場を付加した条件で行動を観察した結果、誘引あるいは忌避という行動は観察されなかった。海底送電線の表面の磁場は2,000-2,500 μTで、50 cm離れると100 μT以下であったにもかかわらず、その千倍以上の人工磁場を付加したところに問題がある。他の多くの調査実験報告書でも付加人工磁場の強さに問題がある。

魚のスレと釣り針の磁化が関係しているとする根拠

釣り針を経験した魚が、それを学習して釣り針を避けるようになる、それがスレであると「スマルア技研」に書いた。スレたニジマスやティラピアは、餌が付いた釣り針に接近するが食いつこうとしない。釣り針を餌で完全に包んでも同じであった。釣り針を除いて餌だけだと直ぐに摂食する。魚は何故見えない釣り針の存在を知るのかという疑問への答えが釣り針の磁化である。市販の釣り針の磁場を同僚に測定してもらったら、強く磁化していた。ピップエレキバンの磁場 (80−130 mT)より弱かったと思うが数値は憶えていない。

釣り針に接近した魚は充分この磁場を感知できるだろう。釣られた時の釣り針の磁場を記憶してスレるというのが私の仮説である。

この仮説には“魚は痛覚を持たない”という前提がある。私は魚に痛覚があるとは思っていない。魚の痛覚を証明したという最初の論文 (Sneddon, 2003) の科学的根拠の薄弱さが批判されたが、その後甲殻類にも痛覚があるという論文が掲載される始末。Sneddonの実験の最大の欠点は、ニジマスに痛みを与える処置をした後、鎮痛剤(モルヒネ)を与えたら異常な痛み反応行動が消えた、ということである。冷血動物に対してモルヒネの沈痛効果は無いという科学的常識を欠いた実験であった。

魚に痛覚が無くても針がかりは魚に衝撃を与え得る。電気感覚がない我々は家電で感電すると衝撃を受けるのと同様である。魚は衝撃を与えた釣り針の磁場を記憶する、というのが私の仮説である。しかし、キャッチ&リリースを繰り返したラージマウスバスが21回も釣れた例を以前の投稿で紹介したが、これをどう説明するのか。私は魚を訓練する実験にラージマウスバスを使ったことがあるが、実験を中断した。ブルーギルに比べるとラージマウスバスの学習能力が極めて低かったからである。

同様なことをLennoxら (2017) も書いている。魚の記憶能力には個体差があるが、ラージマウスバスに記憶能力が極端に低い個体がいるのだろう。私の仮説を実証するには磁化しない材質の釣り針が必要である。磁化しない材質(鉄、コバルト、ニッケル以外)の釣り針の登場を待ちたい。

引用文献

Cada, G.F., Bevelhimer, M.S., Forster, A.M., Riemer, K.P. and Schweizer, P.E. (2012). Laboratory studies of the effects of static and variable magnetic fields of freshwater fish. Oak Ridge National Laboratory.

Connell, C.P., Abel, D.C., Stroud, E.M. and Rice, P.H. (2011). Analysis of permanent magnets as elasmobranch bycatch reduction devices in hook-and-line and longline trials. Fishery Bulletin 109: 393−401.

Ferrari, T.E. (2014). Magnets, magnetic field fluctuations and geomatnetic disturbances impair the homing ability of honey bees (Apis mellifera). Journal of Apicultural Research 53:4: 452−465.

Formicki, K., Korzelecka-Orkisz, A. and Tandki, A. (2019). Magnetoreception in fish. Fish Biology 95: 73−91.

Frankel, R.B. and Blakemore, R.P. (1981). Navigational compass in magnetic bacteria. Journal of Magnetism and Magnetic Materials 15−18: 1562−1564.

Lefeldt, N., Heyers, D., Schneider, N.L., Engels, S., Elbers, D. and Mouritsen, H. (2014). Magnetic field-driven induction of ZENK in the trigeminal system of pigeons (Columba livia). Journal of the Royal Society Interface 11: 20140777.

Lennox, R.J., Alos, J., Arilinghaus, R., Horodysky, A., Klefoth, T., Monk, C.T. and Cook, S.J. (2017). What makes fish vulnerable to capture by hook? A conceptual framework and a review of key determinants. Fish and Fisheries 2017: 1−25.

Nishi, T. and Kawamura, G. (2005). Anguilla japonica is already magnetosensitive at the glass eel phase. Journal of Fish Biology 67: 1213−1224.

Naisbett-Jones, L.C., Putman, N.F., Scanlan, M.M., Noakes, D.L.G. and Lohmann, K.J. (2020). Magnetoreception in fishes: the effect of magnetic pulse on orientation of juvenile Pacific salmon. Journal of Experimental Biology 223: jeb222091.

Richards, I.R.J., Raoult, V., Powter, D.M. and Gaston, T.F. (2018). Permanent magnets reduce bycatch of benthick sharks in an ocean trap fishery. Fisheries Research 208: 16−21.

Rigg, D.P., Peverell, S.C., Hearndon, M., Seymour, J.E. (2009). Do elasmobranch reactions to magnetic fields in water show promise for bycatch mitigation? Marine and Freshwater Research, 60: 942–948.

Slaby, P., Bartos, P., Karas, J., Netusil, R., Tomanova, K. and Vacha,M. (2018). How swift is cry-mediated magnetoreception? Conditioning in an American Cockroach shows sub-second response. Frontiers in Behavioral Neuroscience 12: 107.

Sneddon, L.U. (2003). The evidence for pain in fish: the use of morphine as an analgesic. Applied Animal Behaviour Science. 83: 153−162.

Trański, A., Formicki, K., Śmietana, P., Sadowski,M. and Winnicki, A. (2005). Sheltering behaviour of spinycheek crayfish (Orconectes limosus) in the presence of an artificial magnetic field. Bull. Fr. Pêche Piscic. 376-377: 787-793.

Walker, M.M., Diebel, C.E. and Kirschvink, J.L. (2007). Magnetoreception. In: T.J. Hara and B.S. Zielinski (Eds.), Sensory systems neuroscience, Elsevier, London, pp. 337−376.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

こちらもおすすめ