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磁化した釣り針が魚に与える影響をさらに掘り下げる

魚が自分の周りの環境やエサ、ルアーをどう認識しているのか?

これは釣り人にとっての永遠のテーマです。何をどう感じているのか……、本当に、魚と話してみたくなりますね。

視力や聴力はヒトにも理解しやすい。しかし魚には「磁気」を感じる力も持っています。近年、この研究が進んでいることは、既にスマルア技研でお知らせしている通りです。

「磁気」特集記事リスト

資源保護という意味でも重要なこのテーマを、グンゾー先生のガイドでさらに掘り下げていきます。さらに、本記事の「裏テーマ」は、「定説と異論」。正しいと思われていることは本当に正しいのか、これを追究する科学者の姿勢です。

 

 

近年、板鰓類(鮫やエイ類)は食料として利用される一方で混獲魚として大量に投棄され、世界の資源量は著しく減少した。特にこの傾向はアブラツノザメで顕著で、例えば北米の西海岸沖のオヒョウ延縄漁獲魚の90%がアブラツノザメで混獲魚として投棄されている。アブラツノザメは延縄の餌盗り魚で“海の狼”と称されて嫌われていて、同様の問題がタラ延縄漁業でも起こっている。

釣り針付近の磁場が、バイト(食いつき)に与える影響を探る研究

希土類金属合金製(ミッシュメタル)の磁石が発する強い磁場内に入った板鰓類が異常な遊泳行動を示すことが2000年代に発見され、この発見が延縄漁に関わる板鰓類の行動を制御できる可能性を示唆したことから、2006年World Wildlife Fund (WWF) から表彰された。

その後、水槽実験で、ミッシュメタル(セリウム合金)の板の近くに置いた餌をアブラツノザメが避けて摂食量が70% 減少した (Soner and Kaimmer, 2008)。さらに、北米のアラスカ湾で行われた延縄試験操業ではセリウム合金片を装着した釣り針(図1)で混獲がアブラツノザメで19%,ガンギエイで 46% 減少した(Kaimmer and Soner, 2008)。

図1 延縄操業で使われたミッシュメタルであるセリウム合金片を装着した(矢印)C型針(Kaimmer and Soner, 2008)。ミッシュメタルはプラスに帯電するのが特徴で,海水中では加水分解して陽イオンを発生し、これを板鰓類の頭部にある電気感覚器(ローレンツ瓶器)が感知する。

 

しかし、これらの研究成果を否定する研究報告がある。米国メイン州沿岸で Tallack and Wandelman (2009) が行った延縄操業と一本釣り操業では、釣り針の上10 cmの位置に装着に装着したセリウム合金片がアブラツノザメの混獲数を減らす事はなかった(試験針で221尾、対照針で 244尾)。さらに水槽実験では、セリウム合金板の有無に関わらずアブラツノザメの摂餌行動に何ら違いは認められなかった。彼らは、アブラツノザメが忌避するミッシュメタルを釣り漁業に応用して混獲を減少できる可能性を否定した。しかし、彼らは使用した釣り針の磁場も電磁場も測定していない事に問題が残る。

磁場を作ることでバイトをコントロールできるとする説

米人漁業研究者 Eric Matthew Stroud によって商品名SMART針 (Selective Magnetic and Repellent-Treated hook)という釣り針が発明され、2010年に彼の発明者名で特許品になっている。これは希土類金属(ミッシュメタル)製の釣り針を強く磁化させ、さらに プラスに帯電したマグネシウム合金を被せた釣り針で(図2)、板鰓類が嫌う人工磁場と電磁波を発するミッシュメタル製釣り針を延縄に利用して板鰓類の混獲を防ぐ目的で開発された。この釣り針を使って米国のメイン湾で O’Connell et al. (2014) が延縄試験操業をした結果を紹介したい。

Eric Matthew Stroud は共同研究者であった。操業では SMART針と通常の釣り針(対照針)を 2 m 間隔で交互に配列し、26日の操業を行った。SMART針の磁場の強さは(80ガウス、地球表面の磁場の123-320 倍)操業中に変化はしなかったが、海水中でマグネシウムが溶出して5日後に急速に電磁力が消失するので、SMART針を随時新品と替えた。

その結果、アブラツノザメとガンギエイの総混獲数はSMART針でそれぞれ930尾と4尾、対照針で1,296尾と13尾で、SMART針の効果が認められた。オヒョウやタラなどの硬骨魚類の釣獲尾数には2つの釣り針の間で明瞭な差はなかった。

図2 延縄操業試験に使われたSMART針(右)と対照針(左)(O’Connell et al., 2014)

 

板鰓類の摂餌行動を阻害する可能性があると考えられてきた物資はミッシュメタル、ミッシュメタル磁石、第二鉄磁石(永久磁石)があるが、これらを同じ条件で比較した実験は Ribbins et al. (2011) だけであろう。彼らはオーストラリア沿岸で餌(イワシ)に試験品を装着して海中に垂下し(図3)、それに対するガラパゴスザメ(メジロザメ科)の摂餌行動を水中ビデオ観察した。

図3 試験品の配列方法。A-D、 ミッシュメタル磁石;E-F、ミッシュメタル。 括弧内の数字は魚の異なる体部位で測定した磁場の強さ(単位、ガウス)(Ribbins et al., 2011)

 

実験における摂餌阻害効果を要約すると、以下のようになる。

1)試験した物質は全て万能な物ではない
2)強い磁場を持つ物質が必ずしも高い効果を示さない
3)磁石を餌に沿って縦に並べた(図3C)場合が最も効果的(摂餌阻害効果50%)で、その他の物質では明瞭な効果は認められない
4)鮫が複数の時は摂餌阻害効果が低下する(鮫が餌を競い合うため)
5)繰り返し刺激された鮫は刺激に慣れて摂餌阻害効果が低下する(学習効果、過去の水槽実験と逆)

磁場は関係ない、とする説

延縄の釣り針に磁石を装着したらヨシキリザメの混獲が増えたという フランス人研究者Porsmoguer et al. (2015) の報告は興味深い。彼らが使った磁石は N35-Ni(少量のニッケルNiを含む,1型)とN35-NdFeB(希土類ネオジミウムNd,鉄Fe、ボロンBを含む,2型)の2種で,漁場は北スペイン海域で、磁石を装着した釣り針(図4)と磁石無しの釣り針(対照)の漁獲を比較した。釣り針の磁場の強さは1型で0.885 T(テスラ)、2型で 0.464 Tであった(ただし、対照釣り針も既に0.2 T程度に磁化していた)(単位、1 G = 10-4 T)。図5に示すように、ミッシュメタル磁石装着の釣り針で明らかにヨシキリザメの混獲が増えた。

図4 Porsmoguer et al. (2015) が使用したミッシュメタル磁石装着の釣り針。

図5 2種のミッシュメタル磁石を装着した釣り針(M1とM2)と対照釣り針(Control)の3漁場(Zone 1, Zone 2, Zone 3)における漁獲効率。CPUE、釣り針100本当たりの釣獲尾数

Godin et al. (2013) はミッシュメタル釣り針(希土類のネオジミウム76%とプラセオジウム23%から成る;これらは海水中で電気分解を起こして電場を生じる)をカジキ延縄に使って大西洋カナダ沖で操業した。その結果、ヨシキリザメなどの鮫類に何ら混獲防止効果が認められなかった。

結論は未だ見えず

上述のPorsmoguer et al. (2015) はミッシュメタルや磁石を装着した過去の60の研究結果を取り纏めて表で示した。それを見ると、操業試験結果で効果ありと判定されたのが14例、効果が無かったと判定されたのが21例である。又、実験室での行動実験で効果があったと判定されたのが10例で無かったと判定されたのが8例である。

以上述べたように、ミッシュメタル釣り針による鮫類の混獲防止効果の確認がまだ不充分であるか、疑わしい。Poisson et al. (2016) がマグロ・カジキ延縄漁における鮫類混獲防止研究の全てを網羅した総説で、ミッシュメタル釣り針は高価であること、海水中で変質するので使用可能期間が短いこと、さらに溶出イオン環境汚染を生じて人や魚への健康被害が危惧されるという問題点を指摘している。

参考文献

Godin, A.C., Wimmer, T., Wang, J.H. and Worm, B. (2013). No effect from rare-earth metal deterrent on shark bycatch in a commercial pelagic longline trial. Fisheries Research 143, 131-135.

Kaimmer, S.M. and Stoner, A.W. (2008). Field investigation of rare-earth metal as a deterrent to spiny dogfish in the Pacific halibut fishery. Fisheries Research 94, 43-47.

O’Connell, C.P., He, P., Joyce, P., Strout, E.M. and Rie, P.H. (2014). Effects of the SMARTTM (Selective Magnetic and Repellent-Treated) hook on spiny dogfish catch in a longline experiment in the Gulf of Maine. Ocean & Coastal Management 97, 38-43.

Poisson, F., Crespo, F.A., Ellis, J.R., Chavance, P., Pascal, B., Santos, M.N., Séret, B., Korta Maria, Coelho, R., Ariz, J. and Murua, H. (2016). Thechnical mitigation measures for shark and rays fisheries for tuna and tuna-like species: turning possibility into reality. Aquatic Living Resources 29, 402. DOI: 10.1051/alr/2016030

Porsmoguer, S.B., Bănaru, D., Boudouresque,C.F., Dekeyser, I. and Almarcha, C. (2015). Hooks equipped with magnets can increase catches of blue shark (Prionace glauca) by longline fishery. Fisheries Research 171, 345-351.

Robbins, W.D., Peddemors, V.M. and Kennelly, S.J. (2011). Assessment of permanent magnets and elctropositive metals to reduce the line-based capture of Galaragos sharks, Carcharhinus galapagensis. Fisheries Research 109, 100-106.

Stoner, A.W. and Kaimmer, S.M. (2008). Reducing elasmobranch bycatch: Laboratory inversigation of rare earth metal and magnetic deterrents with spiny dogfish and Paccific halibut. Fisheries Research 92, 162-168.

Tallack, S.M.L. and Mandelman, J.W. (2009). Do rare-earth metals deter spiny dogfish? A feasibility study on the use of electropositive “mischmetal” to reduce the bycatch of Squalus acanthias by hook gear in the Gulf of Maine. ICES Journal of Marine Science 66, 315-322.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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