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魚はどう世界を見ているのか──マダイの視軸と釣りのタナについて

今回のグンゾー先生の記事は、魚の目がテーマ。ルアーフィッシングをする人にとって、とても気になる話題でしょう。解剖学的な「目」と、そして漁という紛れもなく実証的なデータを組み合わせて考えてみます。

タイ漁のタナとエサ

鹿児島県のマダイ一本釣り漁業者によると、マダイは夜も昼も釣れるが、夜釣りでは集魚灯を欠かせないことと、活き餌を使うことが特徴である。

マダイは光に集まる習性はないが、マダイが餌を視認するために照明が必要である。 マダイは海底にある釣り餌には決して食いつかず、自分より上方にある釣り餌に食いがよい。このため、マダイ釣りでは釣り餌を海底から数メートル高い位置に置く。釣り餌が海底に近いとウマズラ、カサゴ、ベラなどの底棲魚が掛ったり、釣り餌をとられたりしてマダイは釣れない。

マダイ延縄でも一般に釣り餌は離底方式である。鹿児島県外では“はしご縄”と称されるマダイ延縄は餌を海底につけない(図1A)。しかし、鹿児島湾で行われている伝統的なマダイ延縄は着底方式であるが(図1B)、餌は活きた小さなフタホシイシガニや小エビである。漁具は着底しているが、元気な活餌は泳ごうとするので離底する。餌が弱ると着底してマダイが釣れなくなるので活力のある餌だけを選んで使う。稀に死んだカニやエビが使われるが、この場合マダイが釣れるのは漁具の沈降中だけなので、投縄終了後に直ちに揚縄する。これらのマダイ釣り漁業技術から、マダイは着底動物を食わないのは確かなようだ。黄海の底曳網で漁獲されたマダイの胃内容物を調べた報告では、主な餌動物はエビ・カニ類で、完全に底棲性の腹足類や多毛類は食われていなかった(岡田、1965)。

図1 様式の異なる2種のマダイ延縄
着底方式ではハリス(市販の12−19号テグス)を熱処理して柔軟性を増して使用する(川村, 1992)。

解剖学的に見たマダイの目、視軸

動物の目は、レンズと視細胞の位置関係でよく見える方向が決まり、これを視軸と呼ぶ。

マダイは肉食性で重要な摂食感覚は視覚である。一般に肉食動物は前方の獲物の距離感をよく把握できる視野になっていて、マダイの視軸は前下方にあって着底した餌を見つけるために都合よくなっている(図2)。 

頭の横に眼が付いている動物でも最もよく見える方向は前方である。魚も同様で、視軸は側方でなくほぼ前方であり、注視時にはレンズがほぼ前後に動いて網膜の後部に鮮明な像を結ぶ。詳しくみると視軸の方向は魚種によって異なり、餌の小魚を下から上に襲うカツオ・マグロ類では前上方、スズキやバスのような中層魚で餌を水平方向から襲う魚では前方、海底の動物を捕食する底棲魚では前下方と、摂食生態と視軸の方向は密接な関係にある(田村, 1970; Sivak,1973; Blaxter, 1980; Shand, 2000)。マダイの眼の構造をみると着底した餌を食わない習性と矛盾するように思われる。

図2 マダイ成魚の網膜における視細胞(錐体細胞)の密度(0.01 mm2当たりの細胞数)分布(A)と錐体配列(単錐体を4個の双錐体が囲む四方形配列)(B)。四方形配列は形状の識別に有利とされる。密度が最も高い部位が後上部にあり、視野の方向が前下方であることが分かる。B, 底部;D, 上; N, 前;T, 後; V, 下(Kawamaura et al., 1984)。

 

マダイの眼は成長に伴って大きく変化する。中層で生活する仔魚期や稚魚初期には視軸が前方にあるが、底棲生活に移る直前に視軸の方向が前下方に変わり、さらに網膜感度がよくなる(Kawamura et al., 1984)。私はこの眼の変化を,着底後の光の少ない海底で底棲動物を捕食するために都合のよい眼への事前準備的変化だと考えた。しかし、水槽内のマダイの摂食行動を観察すると、眼の感度がよくなると薄暗い環境でも摂食するようになるが、食うのは専ら沈下中の餌で,低層を泳いでいながら水底に沈んだ餌は食おうとしなかった。

視軸の方向にある物体がよく見えるのは疑いないが、少なくともマダイでは視軸の方向にある餌を捕食しやすいとは言えない。延縄状の釣具を潮に流してマダイを釣る「流し釣り」でも釣り餌を離底させ、釣り餌が着底すると釣果は期待できないことはよく知られている。魚の視軸の知識は釣りの“棚”を決める手掛かりになると考えたが、視軸と“棚”の関係は魚種によって異なるようだ。

参考文献

Blaxter, J.H.S. (1880). Vision and the feeding of fishes. In: Bardach, J.E., Magnuson, J.J., May, R.C. and Reinhart, J.M. (eds), Fish Behaviour and its Use in the Capture and Culture of Fishes. ICLARM, Manila, Philippines. pp. 33−56.

岡田啓介 (1965). 黄海産若齢マダイの摂餌生態について. 日本水産学会雑 31, 999−1005.

川村軍藏 (1992). 魚類の生態からみた漁法の検討. 水産の研究 11(6), 35−37.

Kawamura, G., Tsuda, R., Kumai, H. and Ohashi, S. (1984). The visual cell morphology of Pagrus major and the its adaptive changes with shift from pelagic to benthic habitats. Nippon Suisan Gakkaishi 50, 1975−1980.

Shand, J., Chin, S.M., Harman, A.M. and Collin, S.P. (2000). The relationship between the position of the retinal area and feeding behaviour in juvenile black bream Acanthopagrus butcheri. Phylosophical Transactions of the Royal Society of London B Biological Sciences 355, 1183−1186.

Sivak, J.G. (1973). Interrelation of feeding behavior an accommodative lens movements in some species of North American freshwater fishes. Journal of the Freshwater Research Board of Canada 30, 1141−1146.

田村 保 (1970). 視覚. 魚類生理, 川本信之編, 恒星社恒星閣, pp. 423−451

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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