スマルア技研

釣りを科学で解き明かすメディア 
Powerd by スマートルアー

魚のトゲは捕食から逃れる武器なのか? エサの形態を考える

グンゾー先生、今度は「ベイトフィッシュ」に注目してみます。

バスフィッシングでは、「ブルーギルはトゲで食べづらいからあまりエサにならない」と言われたこともあります。しかし、ギル系ルアーの流行もあり(ギルと思ってバイトしているかは別の話ですが)、また世界記録のバスは大きなブルーギルで釣られています。果たして、どちらが正しいのでしょうか? 日々のルアー選択のヒントを、科学論文から探っていきます。

多くの種類の魚が体に鋭い刺をもっていて、この刺は捕食者から身を守る武器になると言われている。折りたたみのできる刺は立てた状態で基部が固定される構造になっているので、筋肉を使わずに刺を立て続けることができる。

図1 トゲウオの仲間イトヨ

 

魚の刺の研究はトゲウオの仲間(図1)を使ったものが多く、最初の研究者はノーベル賞を受賞した動物行動学者ニコ・ティンバーゲンである。

トゲウオの刺の数や大きさは種類によって、また系統によって異なる。彼の研究は刺の変異に影響する外的要因(例えば種間の競合や捕食者の多寡)などの遺伝学的、生態学的研究へと発展した。いずれの研究でもトゲウオの刺は捕食されにくい効果があるとの結論である。

トゲは捕食の妨げになる、というのは本当か

しかし、私はこの結論には無理があると思っている。フィールドではトゲウオはパイク、パーチ、ニジマス、ラージマウスバスなどの重要な餌魚であって実際にかなり捕食されているし(Moodle, 1971; Savino and Stein, 1989; Mustamäki et al., 2014; Jacobson et al., 2019)、水槽実験ではトゲウオがパイクに食い尽くされた例もある(Hoogland et al., 1956)。

鋭い刺をもつトゲウオを捕食者はどのように捕食するのか興味がある。ティンバーゲンと共同で行った研究で Hoogland et al. (1956) はトゲウオと捕食者(パイク)の行動を詳細に記録しているのでそれを紹介したい。

餌魚として使われた小魚はトゲウオ2種、刺のない魚4種(図2)であった。これらの餌魚を単独あるいは種類を組合わせてパイクの居る水槽に入れて、餌魚とパイクの行動を記録した。

図2 実験に餌魚として使われた小魚。1、イトヨ;2、キタノトミヨ;3、ミノウ;4、ローチ;5、ラッド;6、ヨーロッパフナ(Hoogland et al., 1956)。

トゲウオのパイクへの反応

・トゲウオはパイクが突進してくると直ちに水草の陰に逃げるが、直に出て来てほとんど食われてしまう。

・パイクの突進速度は速いのでトゲウオはほとんど逃げることはない。

・水槽の隅に追い込まれたトゲウオは体を傾けて背側の刺をパイクに向けることがある。

パイクの捕食行動

パイクのトゲウオの食い方を図3に示した。

図3 パイクのトゲウオの食い方 (Hoogland et al., 1956)。

 

・通常、餌魚の頭に食いつくが尾から食いつくことがしばしばあった。餌魚がミノウであればそのまま呑み込む。トゲウオであれば一度吐き出し、直ちに頭から食い直して呑み込む場合や、口内に数分保持した後に吐き出して再び食いつくことを繰り返し、呑み込むまでに30分以上かかった例もあった。

・トゲウオに体する攻撃的捕食行動は実験の初期と終期で変わらなかった。

・パイクの口の内部が刺に傷つけられて出血し、水槽水が血で濁ることがあってもパイクは摂食を続けた。

・トゲウオと無刺魚を混ぜた場合、パイクは無刺魚を先に捕食した。

・刺を切除したトゲウオは無刺魚と同様に食われた。

パーチの捕食行動はパイクと同様であった。捕食魚は魚の刺を嫌うが、刺の有無にかかわらず捕食するのは明らかである。トゲウオが捕食され易いのは、捕食魚を知覚するとトゲウオは凍り付いたように一時的に動けなくなる(freezeする)ためである。そのため容易に捕食魚の接近を許し、食われてしまう。

パイクもパーチも刺で口内を傷つけてもトゲウオは危険な餌魚であることを学習せず捕食を止めようとしない。これは魚が痛みの感覚をもたないことの証拠の一つであろう。

余談になるが、トゲウオを捕食するトンボの幼虫ヤゴに正常なイトヨと刺を切除したイトヨを与えた水槽実験がある(Mobley et al., 2013)。この実験では両者が同じように捕食され、刺を持つことがヤゴの捕食を防ぐ効果が全くなかった。トゲウオの類では捕食者の多い環境に棲む系統では刺の数が多く、捕食者の少ないあるいは居ない環境に棲む系統は刺の数が少ないか無いという調査報告がいくつかあり、刺の進化は捕食強度と関係すると説明されているが、Mobley et al. (2013)はこの説に疑問を呈している。

参考文献

Hoogland, R., Morris, D. and Tinbergen, N. (1956) The spines of stciklebacks (Gasterosteus and Pygosteus) and means of defence against predators (Perca and Esox). Behaviour 19, 205−236.

Jacobson, P., Berfström, U. and Eklöf, J. (2019). Size-dependent diet composition and feeding of Eurasian perch (Perca fluviatilis) and northern pike (Esox lucius) in the Baltic Sea. Boreal Environment Research 24, 137−153.

Lescak, E.A. and von Hippel, F.A. (2011). Selective predation of threespine stickleback by rainbow trout. Ecology of Freshwater Fish 20, 308−314.

Mobley, Ruiz, R.C., Johansson, F., Englund, G. and Bokma, F. (2013). No evidence that stickleback spines directly increase risk of predation by invertebrate predator. Evolutionary Ecology Research 15, 189−198.

Moodle, G.E.E. (1972). Predation, natural selection and adaptation in an unusual threespine stickleback. Heredity 28, 155−167.

Mustamaki, N., Cederberg, T. and Mattila, J. (2014). Diet, stable isotopes and morphology of Eurasian perch (Perca fluviatiis) in littoral and pelagic habitats in the northern Baltic Proper. Environmental Biology of Fish 97, 675−689.

Savino, J.F. and Stein, R.A. (1989). Behavioural interaction between fish predators and their prey: effects of plant density. Animal Behaviour 3, 311−321.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

こちらもおすすめ