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アメリカの釣り場環境改善事業を見てみる

釣りを真剣に考えていくと、「釣り場の環境」も気になりますよね。ゴミを捨てないとかルールを守るとか、もちろんそれは基本として、さらに、釣り場の自然環境や魚自体が豊かだったら言うことナシ、です。この課題へのアプローチは、アメリカなどではずいぶん進んでいるようです。グンゾー先生に解説していただきましょう。

我が国では漁業振興の目的で設置した人工漁礁を釣り人に解放している例はあるが、遊漁振興を目的とした漁場造成はない。また、公共事業として各地に人工漁礁が設置されているが、その生態的・経済的効果を調査した例は少ない。

一方、諸外国では遊漁の釣りを、国民の肉体的・精神的健康増進に有効だと考えていて、釣り人が喜ぶ釣り場を提供するのが管理者の義務になっている。従って、管理方策が常に公的に評価され、その結果が公開されている。ここではその事例として、米国ミズーリ州の人工湖の例(人工漁礁効果が不明)、ネブラスカ州(人工漁礁効果が顕著)およびフロリダ州(人工漁礁効果が無い)の3例を紹介する。

1 ミズーリ州の例

事業が実施されたTable Rock 湖はミズーリ州とアーカンサス州の州境に位置する湖で、主要な釣り対象魚はブラックバス、クラッピー(サンフィシュ科,ブルーギルの類)、ホワイトバス、walleye、ヘラチョウザメであるが、ブラックバスが最も釣り人に好まれる。そして、この湖の釣り場として経済効果は、調査時点で6千7百万ドルであった。調査を行ったのはミズーリ州自然保護部とミズーリ大学の研究者たち、および Table Rock 湖管理会社の研究員である(Allen et al., 2014)。

ミズーリ州自然保護部が行ったTable Rock 湖釣り場改善事業は国立魚類野生生物保護基金、政府軍機関部、民間会社など多くの機関、団体が協力した国家事業で、事業は2007年10月に始まり2013年12月まで続いた。

魚類棲息地の改善

Table Rock 湖の魚を最も良く知っているガイドや熱狂的な釣り人の意見が積極的に事業に組み入れられ、2,024基の様々な人工漁礁が設置された(図1)。

平底船による投石

ヒマラヤ杉や松の柴漁礁

 

立木漁礁とスタンプ漁礁

電戟漁法によるラージマウスバスとスポッテドバスの採集数を人工漁礁設置前 (2000−2007年)と設置後 (2009− 2013年)で比較した。その結果、両種とも明瞭な差が検出されなかった。原因は設置後の調査期間が短かったためと説明している。

スキューバ潜水調査結果

実際にダイバーが潜り、目視するという調査を2010年と 2011年の2年間行った。

5種の人工漁礁に蝟集されているラージマウスバスの数は 、木製(立ち木)礁とスタンプ礁かつ水中視程が良い漁礁で最も多く見られ、岩石礁と松柴礁では少なかった。ブルーギルの類はヒマラヤ杉柴礁に最も多く誘引され、次いで木製礁に多く、投石礁には全く見られなかった。両種とも人工漁礁付近では動きが活発であった(釣りにくそうではある)。

標識追跡調査

電戟漁法で捕獲したラージマウスバス成魚 70尾に無線発信器(バッテリ寿命約500日)を装着し、Table Rock 湖の一部であるキングス河に放流し、2011年 5月から2012年 6月(産卵開始)まで毎月一回昼夜、標識魚の位置をGPSで調べた。

放流後直後に7尾の位置確認ができなくなり、調査終了までにさらに23尾が行方不明になった。また3尾が釣り人に釣られてリリースされた。

構造物の選択

ラージマウスバスは昼夜ともにドック(船着き場)を最も好み、次いで自然の沈木を好んだ。また、季節的には春と夏に沖合の深場に居て、冬には顕著に岸に近い浅場を選んだ。自然の沈木がある場所を好むのは、餌になる底棲無脊椎動物や小魚が多いためであろう。また、ドックに多いのは照明灯に集まるブルーギルのような餌魚に誘引されるためであろう。

釣り人へのアンケート調査

2012年と2013年に合計4,793人の釣り人に行ったアンケート調査の結果は次の通りであった。

  • 魚類棲息地の改善事業を知っていた人は78−92%。
  • インタビューの日に投入した人工漁礁を利用した人は27%,バスアングラーの利用率が低いため人工漁礁の投入効果判定が困難。
  • 全体的に造成地を非造成地より多く利用し、釣りの成果は造成地の方が良かった 。しかし、釣り場によって釣りの成果に差がない場合があった。
  • 造成地より非造成地で釣った人が60−90%。
  • 釣果に人工漁礁が効果あったと回答した人は46.2%。
  • 釣果を高めるのは木製礁とヒマラヤ杉柴礁で 、水深は3−5 m。

2 ネブラスカ州の例

コットンミル湖の平均水深は堆積物のため1900年以前は3.6 mであったのが1994年には0.6 mになり、漁獲量が87%減になった。州ゲーム・公園協会とKearney市が1997年 −1999年にコットンミル湖回復事業を実施、2003年と2006年に事業効果評価を行った。事業実施前の各種データを1993年に採取記録した。

事業の内容は、湖底堆積物の浚渫除去、稚魚放流(ラージマウスバス、ブルーギル、チャンネルキャットフィシュ) 、人工漁礁設置(石積み上げ礁、木製礁、ヒマラヤ杉柴礁)、護岸工事、身体障碍者用桟橋建設であった。

事業後の試験漁獲量はブラックバス(電戟漁法)では8.0から496.0(62倍)、ブルーギル(篭漁具)では1.5から28.3(19倍)に、チャンネルキャットフィシュ(電戟漁法)では7.5から 34.0に(4.5倍)に増えた。

さらに1時間当たりの釣獲尾数と平均釣獲尾数は表1に示すように目覚ましい成果である。また、釣り人の消費額が2万6千$(1993年)から36万7千$(2006年)に増えた。報告書ではこの事業は成功であると評価した(Spirk et al., 2008) 。

表1 事業実施前後の評価比較

 

3 フロリダ州の例

Kirkpatrick湖は急傾斜の崖で囲まれた急深な湖で、平均水深は 6.5−11 m、フロリダラージマウスバス(ここではラージマウスバスとする)の生息湖である。個人所有の湖で、釣り人数制限や厳しいキャッチアンドリリースの管理が行われている。この報告書の著者たちは調査を担当したフロリダ大学の研究者たちである(Thomson et al., 2005)。

Kirkpatrick湖には以前から6本の大きな沈木が設置されていて、それに加えて5つのキノコ型人工漁礁を1セットとして5セットを湖底に分散設置した。ここに電戟漁法で捕獲した 12尾のラージマウスバスに無線発信器の標識をして放流し、2002年5月から2003年 5月まで毎週追跡調査を行った。得られた結果は次の通りである。

  • ラージマウスバスの分布や移動パターンに昼夜の違いはなかった。
  • 複数の放流個体が接近して分布しているのが探知され、ラージマウスバスは成群するようである。
  • 湖内の移動距離は季節による差は無く、沖合に居ることが多く湖岸 5 m以内に全く寄らなかった。
  • 沖合の沈木に最も多く集まり、人工漁礁にはあまり誘引されなかった。

したがって、人工漁礁をさらに増やしても釣果を上げることにならない可能性がある。人工漁礁は餌魚を集め、それがラージマウスバスを誘引するので、人工漁礁の設置は有効であるという仮説は立証されなかった。

日本のラージマウスバスについて

私が米国におけるラージマウスバス釣り場改善事業を紹介したのは、外来害魚であるラージマウスバスによる在来魚の生態系への悪影響を阻止するためには駆除しかないとする人たちの考え方に疑問を感じるからでもある。

環境省発行の「オオクチバス等の防除の手引き」 (2014)にはラージマウスバス等による捕食や競合という直接的被害と二次的被害が具体的に述べられ、さらに下記のように記している。

“生態系の劣化や漁業資源の枯渇の原因は、オオクチバス等だけでなく、その他の外来種、 水質の悪化、人口護岸化、水辺の植生帯の減少など複数の要因が関わっている可能性があることから、これらの要因についての情報も収集・分析します。”

これは正しい指摘であると思うが、我が国ではこの視点からの研究は行われていない。

私はラージマウスバス駆除論者の意見(例えば濁川孝志, 2001) を間違っているとは考えていない。一方で、全国に蔓延してしまったラージマウスバスを駆除一辺倒ではなく、利用を考えても良いと思っている。我が国のバス釣り人口は500万人と言われて、野放し状態のバス釣りである。釣り魚としてのラージマウスバスの合理的な利用のためには釣り人参加の完全な管理が必要で、ここで紹介した米国における釣り場管理方式は参考になる。

合理的・科学的な漁業管理において漁獲対象魚の行動生態を理解する事が必須と言われる。しかし、これは容易ではない。スマートルアーの登場が釣り人によるラージマウスバスの行動生態の解明に大きく貢献するにちがいない。

参考文献

Allen, M., Bush, S., Siepker, M., Vining, I., Harris, J., Pauket, C. and Borchelt, G. (2014). Final Report: a comprehensive approach to reservoir habitat management in Table Rock Lake. Missouri Department of Conservation. Jefferson City, Missouri. 135 p.

Spirk, P.J., Newcomb, B.A. and Kourpal, K.D. (2008). A case study of a successful lake rehabilitation project in south-central Nabraska. The Prairie Naturalist 40, 95−102.

Thompson, T.M.Jr., Cicha, C.E., Lindberg, W.J., Hale. J.A. and Hill, J.E. (2005). Movement and habitat selection of largemouth bass in a Florida steep-sided quarry lake. Proceedings of Annual Conference of SEAFWA, 227−240.

濁川孝志(2001). ブラックバス問題の現状について考える. 立教大学コミュニテイ福祉学部紀要 3, 99−114.

環境省 (2014). オオクチバス等の防除の手引き. 環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室.

魚、そして釣りを研究してもう何十年と経ちます。 私自身も釣り好きで、GTをおびき寄せる音を開発したけれど、「それはつまらん」と言われてお蔵入りになったことも(笑)。「魚の行動習性を利用する 釣り入門」の著者です。 魚の生態を釣りに活かすことで釣りをもっと楽しみたいと考えています。

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